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「…駄目ね。」
『え?』
デート用の服装に着替えたわたし達を見て、安藤さんは一言そう言った。
「だ、駄目って何がですか…?」
ショックそうに笑が問う。
「うーん、私から見ればまだまだ“仲の良い友達”って感じかな?まぁ、高校生カップルってそんな感じかも知れないけどね。」
『はぁ…?』
「貴女達、服装を選ぶ時、デートする相手のことを考えてる?」
「はいっ、それはもうっ、絵美さんにどう見られるかなー、と考えまくりですっ」
「…あ、わたしそう言うの考えたこと無いかも。」
安藤さん「…はぁ、これはアドバイスが必要みたいね…。」
笑「是非っ」
風間さん「恵、そのアドバイスって長くなる?」
「…かもね。あんまり舜のこと構ってあげられないかも。」
「良いよ。誰にでも優しい恵が好きなんだから♪
…じゃ、私はいつものカフェで待ってるから、指導が終わったらその分を埋め合わせして欲しいな。」
「えぇ♡」
──そんな風に風間先輩と別れて。
「…じゃあちょっとアドバイスと言うかお説教をさせて貰いますけどねっ。」
わたし達は安藤先輩にお説教をされる流れになってしまった…。
「まず椎名の方のエミさん。」
「はいっ。」
…笑が映画で見る軍人さんみたいにビシッと直立してる…。
「貴女は百合城さんのことを気にし過ぎ。」
「うぐっ…!?」
「舜、別れたところ悪いんだけど、椎名さんにファッションのアドバイスをして貰える?
えぇ。百合城さんには私が。じゃあお願いね?舜がいつも心がけていることを話してくれれば良いから。
うん、ありがとう…♪」
──風間先輩に電話を掛けているらしい安藤先輩。
「…次に百合城 絵美さん。」
「は、はい……」
「貴女は椎名さんのことを気にしな過ぎ。」
「えっ…!?」
そ、そうかな…!?
「じゃあ百合城さん、椎名さん、私とショッピングに行きましょうか?
百合城さんには私が、椎名さんには舜が電話越しでファッションについてのアドバイスをくれるから。」
『は、はいっっ』
──斯くして、何時もとは違うショッピングデートが始まったのだった…。
──絵美さん&安藤先輩と別れて、私はTV電話で風間先輩と遣り取りをすることになった。
「それで私はどのようにすれば良いのでしょうか?風間先輩っ」
『先輩って…』
…私の圧が強かったのか、風間先輩は眼鏡のブリッジと呼ばれる部分を中指で押し、恥ずかしそうな顔をした。
『…私は恵と違って説明下手だから。
やりたいようにやれば良いんじゃない?としか言えないよ…』
「やりたいように…」
『ファッションなら、エミちゃんからどう見られたいか。
…いやほんと、やりたいようにやればとしか言いようが無いね…。』
「いえ、そのお言葉で充分です。やりたいようにやってみますっっ」
『…まぁ、頑張ってね。』
「はい!」
──そんなやりとりを遠目で眺めながら、安藤先輩のアドバイスを聞き流すわたし。
…わたしってそんなに笑のこと気にして無いかなぁ…?そんなこと無くない…?
「…百合城さん、貴女ってもしかして視線に鈍感…?」
「えっ?」
「今だってよそ見してたし…。」
それは…。あんなこと言われたら笑のことが気になっちゃうもんじゃない…?
「…そうね。服選びが終わったら椎名さんと見せ合いっこをするから、それを意識して服を選ぶと良さそうね。」
「えーと、つまり…?」
「エミちゃんに見せたい格好をすれば良いってこと。はい、じゃあ始めっ」
「は、はいっ」
…笑は良いけど、安藤先輩にも見られると思うと物凄い緊張するんですけど…。
──そんなこんなで服を選び終え、安藤先輩に試着室で待っててと言われ、緊張しながら。
「エミさーん、エミちゃん連れて来たから出て来て良いわよー?」
「は、はいっ」
…て言うか何でわたしだけさん付け!?って思いながらカーテンを開く…。
「…ども、です…。」
…そこには水色のデニムジャケットと、黒の革ズボンを着た笑が少し恥ずかしそうに立っていた…。
…普段のデートでは、わたしと然程変わらない“普段着”って感じだったのに、大幅にイメチェンしてる…。
──何か、風間先輩に似てるかも?(伊達眼鏡までかけてるし)
「おや絵美さん、随分とまたお洒落をして来ましたね。」
…わたしの方は水色のブラウスと紺色のスカート。強く意識したのは“デート”って部分だ。
「ま、まぁね…。
笑こそ、随分雰囲気変わったじゃん?…似合ってるよ。」
…最後の台詞は安藤先輩の視線に言わされた感がある。あ、あと9日もこんなのが続くの…!?
「うんうん♪合格ね♡」
…良かったー!…て言うかこんなので良かったの…!?…結局わたし達は何が駄目だったんだろう…?
──斯くしてショッピングデートを終え、風間先輩の待つカフェへとやって来たわたし達。
「2人とも今日はお疲れ様♡私からの“アドバイス”はこれで終わりだから、後は好きに楽しんでね。」
笑「はーい♪」
…ふぅ、やっと2人きりか…
「あ。スイーツを頼むなら、別々の商品を選んで、半分こし合うと楽しいわよ♡」
『…。』
風間先輩のところへ向かう安藤先輩に軽く会釈をするわたし達。
──そして。
『…ふぅー。』
どちらからともなく深い溜め息を吐き。
『ふふふっ…♪』
と笑い合う。…ぁあ、わたしの好きな時間が帰って来たって感じ…♪
──安藤先輩のアドバイス通り、2つのスイーツを分け合うことに決めて。その待ち時間。
「…ねぇ笑。
…わたし達って恋人じゃないのかな〜?」
「う〜ん…私に聞かれましても答えられませんね…。
私は今のままでも充分幸せなので♡」
「…うん。」
わたしもきっとそうなのだ。
「…絵美さんは少し鈍感なところがありますから、もう一度言って置きますか♪
──私は今のままでも幸せですよ♡」
「…えっ?
…ぁあ。」
──無理に変わろうとしなくて良いってことか。
「…ありがと笑。こんなわたしのことを好きでいてくれて…♪」
「はい♡私はどんな絵美さんでも好きですとも!」
「…今日の笑、テンションおかしくない?」
「そう言う絵美さんも、もっと自然体でも良いと思いますよ?」
「ふふっ、そうだね…♪
服、着替えちゃおっか?」
「そうですね…♪」
──チョコパフェとジェラートを食べ終えて。
ドリンクを飲みながら、笑と携帯で面白動画を見ながら笑い合って。
──わたしはふと思う。これって友達?恋人?と。
…このままでいたいと思うのと、笑と恋人になりたいと言う強い思いが天秤のように揺れる。
──そこで脳裏に現れたのは安藤先輩の言葉だった。
『…百合城さん、貴女ってもしかして視線に鈍感…?』
はっとなり、笑を見る。
「?…♪」
笑は急に見られたからか、頭に疑問符を浮かべた後何時ものように微笑んで来た…。
「…。」
──けれどわたしには分からない。
…椎名 笑。
貴女は。
何を考えているの…?
わたしとどうなりたいの…?
──そこまで考えて、今度は笑の言葉を思い出す。
『──私は』『今のままでも』『幸せですよ♡』
…言葉が途切れ途切れに頭の中で響く…。
わたしは…わたしはどうしたら良いの…?
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