第二章 『はじめまして』をもう一度

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[1] 気付くとカレンダーは十月になっていた。 やっと残暑の厳しさが少し和らぎ秋を楽しめる季節になって来たというのに、今度は太平洋の向こうから次々にやってくる台風のせいでお天気は今ひとつ。鞄の中には折り畳み傘が欠かせない。 満員電車に揉まれること数十分。毎朝のことながらも、出勤するだけで疲れてしまう。 生まれ育った町から引っ越してきて一年以上経つというのに、毎日の満員電車にも、いつまでも涼しくならない都会の暑さにも、一向に慣れそうにない。 気合を入れ直す為に途中のカフェでコーヒーをテイクアウトするのも、仕事に向かう儀式のようになっていた。 都内某所にある自社ビルには、私の勤める【トーマビール株式会社】の本社だけでなく、親会社である【Thomaグループホールディングス株式会社】と、飲料や食品などを扱うグループ会社などの本社が入っている。 グループの全体のロゴである【Tohma】という文字が入った二十階建てのビルの中に、スーツの群れが吸い込まれるように入っていく。 私もその群れの一部となって、流れに逆らうことなくエントランスをくぐりエレベーターホールまで辿り着いた。
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