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「もう五年も前のことだよ?とっくに忘れたし。私はもうあのひとのことなんて思い出すこともないのよ?まどかも、そんなに怒るなんて、労力がもったいないわよ」
「もうっ、ゆっかちゃんは……いつもそうなんだから……」
五年経っても腹の虫が収まらないといったまどかは、頬を膨らませて私をじろりと睨む。
「それはそうと、時間は丈夫なの? 瑛太くん、結城君が一人で見てくれてるんでしょ?」
「うん、大丈夫。もうすぐ出産で里帰りするからしばらくゆっかちゃんに会えなくなるでしょ?だからしっかりお話してきていいって。二人目が生まれたらしばらくはこうしてゆっくりお喋りする余裕もなくなるだろうし」
「そうだよね…」
「だから今日はゆっくりしておいで、って理人が」
「そっかぁ。良い旦那さんだね」
「えへへ、ありがと」
まどかの旦那さんの結城君は、まどかの幼馴染だ。
同い年の彼とは同じ学校に通ったことはないが、高校生の頃からまどかを通じて何度か会ったことがある。
結城君は無口であまり表情豊かなタイプではない。私も割と打ち解けるまで時間のかかるタイプなので、初めの頃彼と会話が弾むことは無かったけれど、まどかを見る時の彼の視線がとてもやわらかくて、結城君と話すまどかの顔は見たことないくらい可愛らしかった。そんな彼らを見ているだけで、私はほんわかと和やかな気持ちになっていた。
『いつか私にもこんなふうに想いあえる相手と出会えるのかな……』
高校生だった私は、いまだ誰にも抱いたことのない恋心を想像して、胸を高鳴らせていた。
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