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「私はいいと思うけどな」
「え?何が?」
「何がって、高柳さんだよ」
唐突な台詞に首を傾げた私に、まどかは間髪入れずにそう答える。
「お見合いで再会した上に仕事でも一緒になるなんて、やっぱり運命なんじゃない?告白してみたら?」
「ごほっ、~~っ、まどかっ!」
あまりにも突拍子もないまどかの思いつきに、私は口に入れたばかりのマロンパイを詰まらせそうになった。
「だって、相変わらずかっこいいんでしょ?高柳さん」
「…………」
まどかの問いかけに無言のまま、詰まりかけた喉にコーヒーを流す。
彼女とは大学は別々だったけれど、サークルのイベントの時にこっそりと“初恋の彼”を見せたことがある。遠目にでも分かるくらい彼のイケメンオーラはすごかった。
「大学の時もモテモテだったんでしょ?きっとゆっかちゃんの会社でも人気がすごいことになっちゃうんじゃない?他の子に取られる前に先手必勝よ、ゆっかちゃん!」
「先手必勝って……何度も言うけど、私は高柳さんとどうこうなろうなんて思ってないってば」
「えー」
「それに彼の人気はすでに『すごいことになっちゃって』るわよ?」
トーマビールにやってきてまだ一週間ほどの彼だが、すでに女性たちの噂の的だ。休憩室や給湯室での会話に彼が出て来ない日は無い。
「親会社から来た独身エリートイケメンだもの。先輩後輩関係なく、みんなすごい意気込みよ?」
「ゆっかちゃん…そんなのんきなこと言って……」
「だって私には関係ないから。むしろ関係があると思われたら周りからどんな目にあうか……」
考えただけでもそら恐ろしい。
女同士の熾烈な争いに巻き込まれるなんてまっぴらごめん。私は波風立てずに定年まで今の会社に勤めていたい。私の望みはそれ一点だ。
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