第三章 嵐は突然に

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「しかも高柳統括は、仕事だけじゃなくてプライベートでも容赦ないらしいですよ?」 「ああ、あの噂ね」 「あの噂?」 大澤さんが口にした『あの噂』が、私には何の事だか分からない。 「主任はご存じないですか?高柳統括が陰で“鉄壁(アイアン)()()”と呼ばれていること」 「アイアンGM……」 「言い寄ってくる女性達をことごとく冷たく振っているうちに、そんなあだ名がついたらしいんですよ」 「冷たく振って……」 なんだか想像に難くないな、と思っていると、今度は幾見君が声のトーンを落として話し出した。 「食事に誘ったりしてきた女性に『貴女に興味はありません』と断ったり、雑談をしようとすると『仕事以外に貴女に割く時間はありません』と途中でバッサリ」 「そうそう。受付の森山さん。外出から戻ってきた高柳統括に声を掛けただけで、『こんなことに時間を使う暇があれば取引担当者の顔と名前を完璧に一致させてください』ってお説教までくらったらしいです」 「あの社内のアイドルの森山さんに!?」 幾見君と大澤さんが口々に話す内容に、私はただ目を丸くして聞いているだけだ。 森山さんは二階の総合受付担当の女の子で、このトーマビルで一番の美人だと噂で、男性社員の間ではアイドルのような存在らしい。 「まあ、仕事中もまさに“アイアンGM”ってかんじですよね。ちょっとやそっとじゃ動じそうにないですし」 「たしかに……」 二人は頷き合っている。
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