第三章 嵐は突然に

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「だから雪華さんはやめておいた方がいいです」 いきなり話を振られたので、反応が遅れてしまった。 じっとこちらを見つめてくる瞳に、何か物言いたげなものを感じる。何が言いたいのだろう、と思っていると、彼の隣の大澤さんが口を開いた。 「でも私は、イケメン統括とクールビュティな青水(あおみ)主任。仕事の出来る者同士、ピッタリだと思いますけどね…」 「クールビュティ……」 そんな風に言われるとは思ってもみなかった私は、思わず固まった。 「あら、ご存じないですか?主任、本社では“仕事の出来るクールな美人”って、男性たちに人気があるんですよ?ねぇ、幾見君」 「まぁ、そうですね……」 なぜか少し不満げな幾見君を見て、大澤さんは「ふふっ」と笑う。 それから彼女は私の方に視線を戻して、話を続けた。 「主任だって思い当たることの一つや二つあるんじゃないですか?食事のお誘いとか合コンとか」 大澤さんの指摘に思わず言葉が詰まる。 たまに―――本当にたまにだが、社内の男性に食事に誘われることがある。 その都度丁寧にお断りしているが、あれが大澤さんの言う『人気がある』ということなのだろうか。 「社内恋愛はしない主義なの」 短くそう言うと、なぜか「えぇっ!」と幾見君が大げさに驚いた。 「そんなことよりも、そろそろ仕事に戻りましょう。山のように出された仕事が終わらないわ」 私の言葉に二人とも「そうですね」とため息をつくと、ミーティングルームを片付けはじめた。
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