第三章 嵐は突然に

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まどかと別れ、自宅のある駅に降りた私は、駅から出た途端頭にポツリと冷たいものが落ちてくるのを感じ、空を見上げた。 さっきまですっかり忘れていた空は、もうすっかり暗くなっている。 『本降りになる前に帰らなきゃ……』 徒歩10分の自宅まで、私は足を速めた。 ―――ピカッ 辺りが一瞬明るくなって、しばらくすると『ゴロゴロゴロ』と嫌な音が聞こえてくる。 『うわっ、カミナリ!』 強くなる雨足と鳴り出したカミナリに、私は全速力で駆け出した。 家まであと少しというところで、ザァザァと本降りになった雨。時折聞こえる遠雷が、だんだん近づいているのが光と音の間隔から分かる。 濡れないようにチーズタルトをしまったかばんを胸に抱きかかえながら、水しぶきが跳ね返るのも気にせずに、ひたすら家まで走って帰った。 『ただいまっ!もうやだ、びしょびしょ』 髪から雫がぽたぽたと垂れ、着ている服がじっとりと重たい。 鍵を開けて入った家の中には、母の気配はなかった。 『お母さん、今日も残業か……』 母は早ければこの時間には帰宅しているけれど、大抵残業をしてから帰ってくる。 帰宅する母が、この雨に遭っていないといい。 『お母さんは大丈夫か…』 保険の営業員をしている母は、仕事柄鞄の中に折り畳み傘を常備していると聞いたことがある。 母のことよりもひとまず濡れ鼠状態の自分を何とかしなければと、風呂場へ直行した。
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