第三章 嵐は突然に

18/23

17950人が本棚に入れています
本棚に追加
/359ページ
シャツ上にジレだけを纏った彼は、スラリと長い脚を軽く交差させて入口に寄りかかっている。捲りあげた袖から覗く腕は太く逞しい。 逆光で顔は良く見えないが、誰なのか問うまでもない。 私が返事をしないでいると、彼の方からこちらへやってきた。 「気持ちが悪いとか痛いところはないか?」 「……はい」 「そうか」 高柳統括はそれだけ言うと、あとは何も言わずじっと私を見降ろす。 睨むのでも見つめるでもなく、ただ観察するようにじっと見てくる彼の視線に、私は段々落ち着かなくなってきた。 「あの…これ……」 何か、何でもいいから私から視線を外して欲しくて、咄嗟に手に持っていた上着を彼へと差し出した。 「掛けて下さったんですよね?ありがとうございます」 「ああ…」 受け取った上着を腕に掛け、「大丈夫か?」と訊ねた彼の言葉に「大丈夫です」と返す。 「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません。それとここまで運んでいただいたことも……」 しっかりと目を見て謝罪を口にした後、頭を下げる。 「いや、大丈夫ならもういい。君は……」 高柳統括は何か言いかけたが、「いや、いい」と言って口を閉じた。
/359ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17950人が本棚に入れています
本棚に追加