第三章 嵐は突然に

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デスクに置いてある鞄を取ってきたあとは、高柳統括の後ろを大人しく着いて行った。 黙ったままエレベーターに乗り、地下駐車場まで行く。駐車場はガランとして他の車はまったく無く、ポツンと置かれた黒い車が彼のものだとすぐに分かった。 「どうぞ」 「…お邪魔します」 二度目になる彼の車に慎重に乗り込む。 一度目も感じたが、彼の車には余計な物は何も置いておらず、ゴミやほこりも見当たらない。ものすごく高級な車ではないが、なんとなく汚してはいけないような気になってしまう。 運転席に座った高柳統括がエンジンを掛け、それからラジオをつけた。すぐに聞こえてきた台風情報に黙って耳を傾けた。 ―――台風十七号は、非常に強い勢力を保ったまま、きょうの午前中から昼過ぎにかけ東日本に接近または上陸し―― 気を失っている間に、いつのまにか日付が変わってしまっていたようだ。 「私のせいでこんな時間まで統括をお引止めしてしまって、申し訳ありません」 「いや…大事に至らなくてよかった。急に倒れたから病気か何かと思ったから焦ったが」 「すみませんでした。……私、カミナリがダメなんです…トラウマがあって………」 「……そうか」 統括はそれ以上何も聞かずにいてくれた。
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