第四章 思いがけない避難先

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「統括は普段仕事の後に飲んだりしませんか?」 「自宅では役職名で呼ばれたくない。職場にいるようで落ち着かないだろう?」 「えぇっと……ビールの他に食事になりそうな物も買ってみました。泊めて頂くお礼にもなりませんが、良かったら……高柳さんも、いかがですか?」 「……ありがとう。せっかくだから頂くよ」 彼はソファーには座らずローテーブルを挟んだ向かいのラグの上に腰を下ろすと、置いてあるビールの缶を手に取った。 手に取った瞬間、彼はほんの少しだけ目を見張った。 「よく冷えているな」 「保冷材の代わりのこれを敷いておいたので」 再びガサガサとコンビニの袋の中から私はそれを取り出した。 「冷凍枝豆――か」 「はい。帰りがけに買ったビールが(ぬる)くならないし、家に帰って飲む頃にはちょうどよく半解凍になった枝豆も摘まめるので一石二鳥なんですよ?」 彼の興味を引けたことでうっかり得意げになってしまう。 「あ、食べるものは他にもありますよ?」 言いながら、買ってきた物を次々とローテーブルに並べた。 昆布おにぎり、ツナロールパン、レーズンパン、チョコチップパン、カップ麺、さきいか、チーカマ、それとミネラルウォーターのペットボトル数本。 統一性が無いラインナップが、ずらりと並んだのを見ながら「お好きな物をどうぞ」と声を掛けた。が、目の前の彼がそれに手を伸ばす気配はない。
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