第四章 思いがけない避難先

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ドクン―― 心臓が大きく波打った。顔がみるみる赤くなっていくが自分でも分かる。 目を見開いて固まってしまった私には気付かず、彼はローテーブルの昆布おにぎりを手に取り、「いただきます」と言っておにぎりのフィルムを剥がし始めた。 (は…反則だわ…………) 再会してから初めて彼が私に向けた微笑みは、私の心臓を鷲掴みにするのに十分な威力を持っていた。 心臓がうるさく音を立て、体がじわじわと熱くなっていく。 白いTシャツからⅤネックからのぞく鎖骨。筋張った逞しい腕。額に掛かる、サラリとした洗いざらしの髪。 職場では見ることのない、そして、あの“お見合い”の時とも違う、まったくのプライベートの姿。 今更ながら、高柳さんのプライベートな空間に二人きりでいるのだという現実に、私はひどく緊張しはじめた。
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