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第二話 冷酷王の思惑
メルフォーゼが僕を連れてきたのは央都の東にあるイスタエトワールという国だった。
僕は軟禁されていた10年間、多くの書物を読み漁りたくさんの知識をつけてきた。しかし、新しい新聞だけは理由は分からないが、僕の世話係は持ってきてくれることはなかった。だから最近の国の情勢を知ることはできなかった。
古い書物ではイスタエトワールは絹織物を中心とした産業が中心の豊かな国だと書かれていたが、現在は精密機械を中心とした技術国家へと発展していた。
またイスタエトワールは代アラスタリス人の王族・エトワール家によって治められているとされていた。どうしてアラスタリス人ですらないメルフォーゼがこの国の王になっているのか、多くの疑問が浮かんだ。
僕らを乗せたラグラスは城の裏口にひっそりと降り立った。
『魔力を制御できるようになるまでお前の存在は外に漏らさないことにする。ラグラス、お前が面倒を見てやれ。』
『え、』
僕は低く唸る古代飛竜を見た。チロチロと黒くて長い舌が見え隠れしている。
このドラゴンが?
ラグラスが地面に深くひれ伏すと、石畳に赤い魔法陣が浮かんだ。そして、ラグラスが光に包まれその輪郭がぼやけると、次の瞬間には、メルフォーゼに似た黒髪・赤目の執事が現れた。
『かしこまりました。』
優しい透き通る声で青年は主人に傅いた。
ドラゴンが…執事に…!
僕が目を見開いているとラグラスはふふっと笑った。
『変化ができるドラゴンは珍しくないですよ。』
メルフォーゼは乱暴に僕をラグラスに押し付けると、フッと消えてしまった。
『あの、ラグラス様には僕の魔力は利きませんか?』
地下通路をコツコツとラグラスの足音が響き渡る。
『ええ。なんせ僕はドラゴンですから。ナイトメア様はそうですね…子犬のように可愛いですが、心を奪われることはありません。』
僕は少し複雑な気持ちになったが、僕の魔力に犯されることなく会話をすることができる存在はとてもありがたかった。それがドラゴンだとしても。それぐらい僕の孤独への恐怖は深いものだった。
『あの、ドラゴンは孤高で決して人間に従属することはないと本で読みました。』
僕の言葉に、ラグラスは歩みを止めた。
まずいことを聞いてしまったかと、ラグラスを見上げた。しかし、彼はにこりと微笑むとまた歩を進めた。
『あの方は特別ですよ。いいですか。メルフォーゼ様に決して逆らってはいけません。でなければ命がいくつあっても足りません。』
その声は相変わらず優しかったが、空気がぴりつくのを感じた。
『この国はメルフォーゼ様が前王から武力で奪ったんですよ。この国の誰もが彼を恐れているのです。』
僕は初めてであった時のメルフォーゼの瞳を思い出して、ふるりと肩を震わせた。
『メルフォーゼ様はどうして僕を助けてくださったのでしょうか。』
『いずれ分かりますよ。』
含みを持たせたラグラスの言葉に、僕は不安を隠せなかった。
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