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イスタエトワールは僕が思っていたよりもずっと技術が発展していて、ラグラスは僕のために装着型歩行補助具を用意してくれた。
これは魔力を断続的に消耗する代わりに脚力を上げてくれる最先端の魔道具らしい。
『魔道具の欠点は耐久性が低いところにあります。ですから、少しずつご自身で歩けるように訓練しましょう。』
ラグラスは翌日から僕の教育係として帝国史、科学、魔法学を教えてくれることになった。
帝国史や科学については軟禁されていた10年間本を読み漁っていたこともあり、すでに必要以上の知識を持っているとラグラスは言った。一方で、魔法学は予備知識皆無の状態で学び始めたためとても興味深かった。
『自然界にマナと呼ばれるエネルギーが充満していて、マナを魔力によって別のものに変換することを魔法と呼ぶのです。』
ラグラスは掌の上に小さな火の玉を出現させた。
『魔力を多く消費すれば、より強力な魔法を使うことができます。』
今度はぶわっと、巨大な火の玉が噴出した。
『そして、稀にナイトメア様のように特性を持った魔力を持つ者もいます。例えば【増幅】の魔力を持つ者は、魔力の消費量を増やすことなくより大きな魔法を使うことができます。』
あの、と僕は小さく手を挙げた。どうぞ、とラグレスは言った。
『僕は魔力を使えないのにどうして…。』
ラグレスは首を横に振った。
『違います。ナイトメア様の場合、魔力が制御できておらず、貴方の意思と関係なく魔法が発動してしまっているのです。普通なら訓練しなければ魔力を使うことはできません。しかし、ナイトメア様の場合、訓練して魔力を使用しないようにしなくてはなりません。』
魔法を学ぶのはそれからです、とラグラスは言った。
魔法の基礎もしらない僕が、無意識に魔法を使っているという事実に僕は驚いた。
『そして魔力を封じることは、発動するよりもはるかに難しいのです。』
にやっと意地悪そうに笑うラグラスに僕はたじろいだ。
『でも頑張ります。僕、友達たくさん作りたいので。』
薄暗い部屋に独りぼっちはもうたくさんだ。
ある日、いつものようにラグラス様から指導を受けていたら、突然城壁を吹き飛ばすような爆音が耳をつんざいた。
急いで窓の外の音がする方を見ると、先ほどまで騎士たちが剣の打ち合いをしていた訓練場の地表が深くえぐれていた。
その先に銀髪の男が満身創痍の状態で倒れている。
『あれは、イスタエトワール警察隊隊長のジンです。この国で最も強い騎士です。とういうことは…。』
土煙が風で佩け、メルフォーゼの後姿が見えた。
ドッと額から汗がふきだした。禍々しい怒りの魔力がここまで伝わってきたのだ。
『どうしてメルフォーゼ様が!?』
ラグラスも主人の怒りに焦りを感じているようだった。
『ジンは国際指名手配を受けている麻薬密売組織のリーダーの捕縛を命じられていたんです。その者はとても凶悪で、高値で質の悪い麻薬を売りさばいて貧困街で約2000人中毒者を出したんですよ。あの様子だと、逃してしまったのかもしれません。』
ゆっくりとメルフォーゼがジンに歩み寄る。
『場所が割れていて、包囲も完璧な状態だった。猿でもできそうな任務にわざわざお前を行かせた意味が分かるか?』
『申し訳ございません…。』
僕は二人とラグラスを交互に見た。
『ラグラス様、助けないと…!』
とんでもない、という表情をラグラスは浮かべた。
そう言っている間にも、メルフォーゼは腰の剣をするりと鞘から抜いている。
『おまちください、メルフォーゼ様。』
その声にメルフォーゼはぴたりと動きを止めた。
中庭に続く渡り廊下に、青い挑発を束ねた青年が立っている。その手にはたくさんの資料が抱えられていた。
『あれは、メルフォーゼ様の右腕、アクアジェイルです。』
ラグラスが囁くように言う。
『これからナイトメア様との訓練がございます。その後、央都で会議です。16時には発たなくては間に合いません。お急ぎください。』
アクアジェイルと呼ばれた騎士は主君の怒りを意にも介さず淡々と告げた。
すると、メルフォーゼはジンを睨みながらも、スッと剣を鞘に納めた。
その様子を見て僕は胸を撫でおろした。
…え、ちょっと待って。
『ラグラス様、今あの人…。』
『そろそろ魔法学の知識も身についたことですし…ということで今日はこれからメルフォーゼ様との魔力制御訓練を行う予定だったんです。なんせドラゴンの私に人間の魔力操作は教えられませんので…。』
僕は気が遠くなるのを感じた。
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