第二話 冷酷王の思惑

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『すでに知っていると思うが、スノーコット国王が亡くなった。』 今回の帝国軍事会議の議題は先日スノーコットを襲撃したガランダウスの侵攻についてだった。 幸い、スノーコットに接する三国からの速やかな援護により、敵がスノーコットよりも内地に侵入する前に退けることができた。 しかしスノーコットにおける被害は小さくはなかった。 3分の1の民家は焼き払われ、国防軍もほぼ壊滅状態となりとてもではないが、自力で国境を守ることなどできる状態ではなかった。 『今回のことでスノーコットが帝国の防衛上重要な役割を離していることが分かったはずだ。すぐに後継者を見つけ北の国境の防衛力を立て直す必要がある。』 帝王ジャルル=ジャンはの言葉に各国の王は頷きあう。 『しかし、アルベルト=スノーコットの直系血族は絶えている上、遠い血縁者も他国へ亡命している。』 まさか、とは思ったが本当に央都にすらナイトメアの存在は知られていなかった。 これはチャンスだと思った。このままナイトメアを騎士として育てれば俺の強力な手駒になる。 『当分の間は帝国軍が市民の生活の援助及び国境警備の指揮を取る。しかしいずれは、別の貴族かーーー又は民主的に主導者を決定しなければならない。』 『お前、何か企んでるだろ。』 アクアジェイルを従えて、自国に帰還しようとしていたところ、背後から声をかけられた。 「ユースティティア様、ご無沙汰しております。」とアクアジェイルは形ばかりの挨拶をする。 俺を呼び止めた男はユースティティア=ユリウス。 長い絹のような金髪と碧眼というナイトメア同様に生粋のアラスタリス人の特徴を持った男である。 奴は央都を挟んでイスタエトワールの反対側に位置する、ユリウス王国というアラスタリス帝国最古の国の現国王だ。また同時に、帝国随一の魔道士である。 年齢は俺と大差ないにもかかわらず、帝国軍事会議では帝王の次いで発言力を持っていた。 俺は何かと絡んでくるこの男が煩わしくてしょうがなかった。 『関係ねえだろ。』 俺はやつを一瞥すると、また背を向けて歩み出した。 『無くねえだろ。場合によっては、帝王に報告しなくちゃいけないし?』 こいつ、まさかナイトメアの存在を知っている…? 『怖い顔するなよ。呼び止めたのは別件だって。例の麻薬組織の指導者のこと。』 『捕縛に失敗したことを笑いに来たのか?』 違う違う、とユースティティアは笑う。 『新しい情報が入ってね。奴はガランダウス帝国の秘宝の魔道具を持っているらしい。お前とこのジンが逃したのもそのせい。』 『魔道具だと?』 『そう。自身を半径500km以内なら瞬時に転送できる魔道具らしい。』 無機物の転送魔法は一定レベルの魔術師であれば誰でも使えるが、人間に転送魔法は高等魔法だ。しかも国をまたぐレベルの距離で転生できる術師は数えるほどしかいない。 俺も一度使えば、しばらく初級魔法しか使えないぐらい魔力を持っていかれる。 それを可能とするのであれば、かなり厄介な魔道具である。 すでにイスタエトワールから遠くの地に身を隠してしまっている可能性もある。そうなれば見つけることは困難だ。 『だけど奴は必ずイスタエトワールの国境周辺にいる。理由は教えないけどね。』 ユースティティアは言った。 『俺からはそれだけ。』 じゃあねと奴は後ろ手に手を振った。 『あと、お前が何企んでるか知らないし、お前の復讐を邪魔するつもりは微塵もないけどさ、帝国に仇なす場合は俺も黙ってないからね。』
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