3 パーティ会場での邂逅

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3 パーティ会場での邂逅

 従兄が案内してくれたパーティー会場は、近未来的だが落ち着きのあるホテルの最上階にあった。 「今日は、女子も結構来てるな」  アキラが疲れないよう、長椅子を早々に確保し、適当な食べ物を見繕ってきた従兄の言葉に釣られるように、辺りを見回す。男性のようなスーツや、優雅なドレスをまとった生身の女性は、病人と白衣の看護師を見慣れたアキラの目には眩しく映る。気後れを感じ、アキラは従兄のヨウイチが差し出すサンドイッチを小さくかじった。 「女子とも、少し話してみるか?」  ホテル側の人間だろう、簡素なブラウスと短めのスカートをまとった女性から目を離した従兄が、知り合いを探すように会場をぐるりと見渡す。その時、アキラの目の前で、濃い色の短いスカートが翻った。 「どうぞ」  意外に白い手が差し出した、小さなグラスを、受け取るかどうか迷ってしまう。 「あ、そこに置いといて」  一方、従兄の方は頓着無しに、食べ物を置いている小さいテーブルを顎で指し示した。 「ここ、カクテルも美味しいんだよな」  二つ並べられた小さなグラスの一つを手にした従兄は、グラスの中身を一息で飲み干す。 「うん、美味い」  そしてもう一つのグラスを、従兄はアキラの目の前に差し出した。 「アキラも、飲んでみろよ」  受け取ったグラスを、おそるおそる口まで運ぶ。しかしグラスの中身を含む前に、濃い色のスカートの裾が再びアキラの目の前を舞った。 「……?」  グラスを持つアキラの手を掴んだ白い手に、顔を上げる。何の表情も無い、しかし僅かに首を横に振った女性の顔は、確かに、かつて同じ病棟で暮らしていた、腎臓を患っていた少女の顔だった。 「どうした?」  従兄の声に、我に返る。  アキラの手の中に、グラスは無い。白い手の女性の姿も、既に無かった。 「そう言えば、叔母さんに『お酒は飲ませるな』って言われてたっけ」  悪びれの無い従兄の言葉に、呆れを覚える。いつものことだ。冷たいままの腹の底から出てきたのは、諦観。 「今夜は、あまり面白くないな」  こちらの話に付き合ってくれそうな女の子もいないし。従兄の言葉に、気怠く頷く。会場のあちらこちらで、男女が楽しく歓談している声が聞こえるが、アキラにとってはどうでも良いこと。 「帰るか」  立ち上がった従兄に、頷く。 「腹、痛くなってきたし」  出入り口の方に顔を向けた従兄に、アキラも気怠げに長椅子から立ち上がった。
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