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4 帰り道
ホテルの人が呼んでくれたタクシーが、ネオンが光る繁華街を走る。
「ううっ」
時折小さく唸り声を上げる従兄から、アキラはそっと目を逸らした。ヨウイチが体調を悪くするなんて、珍しい。だが、丈夫さが取り柄の一つである従兄だから、帰宅する前に良くなるだろう。どちらにせよ、アキラには関係の無いこと。段々と少なくなる蛍光色を、アキラは他人事のように眺めていた。
「う、ぐっ!」
不意に、ヨウイチの唸り声が大きくなる。
「えっ」
動けないアキラの目の前で、ヨウイチの身体は大きく前に倒れた。
「ヨウ、イチ?」
「どうした?」
異常を察知した運転手が、道路の端に車を止める。
「うぐっ……」
従兄の方へと伸ばしたアキラの腕は、従兄が吐いた血で黒く染まった。
「え……」
無意識に震えるアキラの腕の中に落ちた従兄の身体に、熱は無い。
「……」
呆然とした、しかしどこか諦めた、冷めた気持ちで、アキラは、土気色になっていく従兄の顔色を眺めていた。
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