後悔先に立たず

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後悔先に立たず

「…ん…」  う…  い…いた…  頭が、痛い。  割れるくらい、ひどい…  あたし、どうしたんだっけ。  知花の結婚式のあと…事務所のパーティールームで二次会して…  ああ、浅香京介と飲みに行って…  そのあと… 「……」  寝返りを打とうとして、固まる。 「……」  どういうことよ。  目の前には、京介。  熟睡してる。 「……」  …あたしは、自分の姿を確認…  ……  な…  な…な…  何も、着てない―――っ!!  待って。  待って待って。  落ち着いて。  何も…何もなかったかもよ?  ゆっくりベッドから出て、自分の服を着る。  ここ、どこよ。  こいつの部屋?  何もない、殺風景な…  …とにかく、一刻も早くここを立ち去らないと。  忍び足で玄関に向かい、靴を履いて玄関のカギを… 「っ…」  突然電話が鳴って、あたしは肩を揺らせた。  そして靴のままシャワールームに隠れる。  あああああ…タイミング逃した…!! 「…………はい。」  京介が、眠そうに受話器をとる。 「ああ、アズか…ああ、今起きた。」  大きなあくび。 「え?いや、女と一緒だった。え?ああ……誰だと思う?」  ちょっと…  ちょっとちょっと。 「いや、おまえの知ってる女。」  東さんに言わないでよ。  仮にも、従姉妹の旦那よ? 「はは、そう。みんなが言ってた鉄の女。」  ……カチン。 「みんなが言うほど難くなかったぜ?夕べもここ泊まったし。え?あたりめーだ。やらないわけねえだろ?」  …… 「賭けは俺の勝ちだな。俺に落とせない女はいないっつったろ?」  …ああ、そう。  そうなの。  あたしに声を掛けて来たのって…そういう事。  自分に落とせない女はいないって賭けに、鉄の女を落とせるかって…  ふーん。  神様。  暴力を振るう事を、お許しください。 「ああ、じゃあな。」  京介が電話を切ったのを確認して。  あたしは、京介の背後に忍び寄る。 「…賭けって、なによ。」 「うぉっ…な…何だ。おまえ、まだいたのかよ。」 「賭けって、何?」 「…おまえと寝れるかどうか。」  京介は、面倒くさそうにそう言って、タバコに火をつけた。  あたしは、キッチンで一番大きな鍋に水を汲むと。 「ひっ…なっ何しやがんだっ!」  京介の背後から、それをぶっ掛けた。 「最低な男ね。」 「おまえだって、気持ちよさそうだったじゃねえか!」 「何も覚えてないわよ!酔った女相手に、よくそんな事が出来たわね!」  今度は、京介が水を汲んで。 「きゃっ!」  あたしに、ぶっ掛けた。 「お高くとまってんじゃねーよ!初めてじゃあるまいし!」 「っ……」  赤くなってしまったと思う。  そんなあたしを見た京介は。 「……もしかして、初めてかよ。」  意外そうな顔のあと。 「そりゃ、惜しかったな。記念すべきロストバージンを覚えてなくて。」  大笑いしながら、言った。 「……」  この震えは何だろう。  水を掛けられて寒いから?  ううん…  怒りと……  一瞬でも、こんな男に心地良さを感じた自分の愚かさに…!! 「なんなら、もう一度相手してやっ…がっ!!」  京介の言葉の途中。  あたしは思い切り、その頬を殴った。  そして。 「死ね!バカヤロ!」  大きな声でそう言って、部屋を飛び出した。 「…くっそー…」  情けない。  なんで、あんな奴に…  びしょ濡れのまま、外に出ると、少しだけ風が肌寒くて。 「っ…くしゅっ!!」  くしゃみと一緒に…涙も、少しだけ出てしまった…。
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