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未知の世界へ
「あー、可愛かったなあ、華月ちゃん。」
今日は、珍しく京介と一緒に桐生院邸にお邪魔した。
知花の三人目の子供、華月ちゃんに会いに。
「…聖子、子供好きなのか…?」
隣を歩いてる京介が、ボソボソと問いかけて来る。
「んー、今までは好きじゃないって思ってたけど、知花んちの子、みんな可愛いのよね。あ、センのとこの詩生君も可愛いし。」
京介と付き合い始めて…半年。
最初はあまり生い立ちを話したがらない京介だったけど、あたしが拗ねたふりをするとポツリポツリと話してくれるようになった。
…まさかあたしが…男相手に拗ねたふりをするようになるなんて…。
お互い、全部…なんてあり得ないとは思うけど、そこそこの情報交換はした気がする。
それがカッコ良くてもカッコ悪くても、さほど気にならない所を見ると…あたし達、もしかしたら相性はいいのかなって思う。
…それでも、やっぱりあたしの一番は…知花。
知花の幸せそうな笑顔を見ると、嬉しい反面…切なさも募る。
そんな時、京介は何を察してくれるのか…何も聞かずにあたしを抱きしめてくれる。
今まではなかった温もり。
あたしは、それに甘えてる。
「送ってくれてありがと。また明日ね。」
門の前で京介に手を振る…つもりが。
「…いつか…」
「ん?」
「いつか…俺の…」
「え?」
「いや…何でもない…」
ギュッと手を握られて、引き寄せられた。
「何?聞こえなかった。」
耳元に唇を寄せて問いかける。
すると、京介はあたしの腰に回した手に力をこめて。
「…うちに、越して来いよ。」
珍しく、強気な声で言った。
「……」
「一緒に暮らそう。」
「…え…え…っ?」
「結婚…して欲しい。」
「……」
京介の首元に顔を埋めたまま、瞬きを繰り返す。
そんなあたしの頬を撫でながら、京介は繰り返した。
「結婚したい。聖子と…家族になりたい。」
…絶対、自分には無縁と思ってたから…
頭の中が真っ白になった。
でも、待って。
あたし、何も考えてなかった…なんて、言えない。
そんなの、この半年…京介はあたしの何だったのって話になる。
「…返事は…今じゃなくていいから。」
早口でそう言うと、京介は照れくさそうに前髪をかきあげて…
「…じゃ…」
走って帰って行った。
「……」
プロポーズ…されてしまった…。
…光史が言った通り、あたしが男を好きになるなんて…未知の世界。
あたしはこれから…
どうなるんだろう…?
どうするんだろう……?
この続きは、あたしが自分の気持ちをちゃんと確認出来てから…ね。
13th 完
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