彼じゃないとダメなの

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「でも、もうだめだよね…」 「ん?」 「まこちゃんのこと、傷付けちゃった…」 「あんただって、傷付いてんでしょ?」 「あたしの傷なんて…」  ハッとして体勢を低くする。  入口のドアが開いて、お兄ちゃんとまこちゃんが入って来たのよ。 「…話す?」  聖子(せいこ)ちゃんが小声で言ってくれたけど。  あたしは、ぶんぶんと首を横に振る。 「無理だよ…帰る…」 「もうっ。このままでいいの?」 「だって…」 「まこちゃん、モテるよ?」 「……」  上目使いで、聖子(せいこ)ちゃんを見る。 「うちのバンドで一人身はまこちゃんだけだからね。事務所でも、結構目つけられてんだから。」 「……」  でも、あたしには何も言えない。  もう、あたしたちに復活はのぞめないよ…  あたしがうつむいたまま、くよくよしてると。 「鈴亜(りあ)。」  ふいに、大好きな声。 「…まこちゃん…」  顔をあげると、まこちゃんがあたしの前に立ってる。 「じゃ、あたしはこれで。」  聖子(せいこ)ちゃんが席をまこちゃんに譲る。  そして、聖子(せいこ)ちゃんはまこちゃんの耳元で何かをつぶやいて。 「素直になんのよ?」  あたしに、指差して…そう言った。 「…あの時は、ごめん。」  まこちゃんが、沈んだ声で言った。 「…え?」 「頭の中パニックで…きつい言い方しかできなくて。」 「……」  まこちゃんでも、パニックになるなんてことがあるんだ。 「あれから、いろいろ考えた。」 「…何を?」 「鈴亜(りあ)が、一番幸せになれる方法。」 「……」  髪の毛を、かきあげる。  あたしの、大好きな仕草… 「あの時一緒にいた男が好きなら…それは…それで仕方ないんだけど…」  そんなこと、言わないで。  あたしは、まこちゃんしか…  でも、あたしが言ったって…そんな言葉も嘘に聞こえてしまうよね… 「いや…そうじゃなくて…」 「?」  まこちゃん、今までになく、うろたえてる。  何? 「その……まあ、鈴亜(りあ)があいつが好きなら…仕方ないけど……でも。」 「……」 「でも、俺は納得いかない。」 「…まこちゃん…」 「確かに、俺はバイク乗らないし…ハデな格好も似合わない。でも、鈴亜(りあ)のことは、誰よりも大切なんだ。」  夢のような言葉が、聞こえてきた。  今、まこちゃんは…あたしのこと… 「鈴亜(りあ)は、デートが短いって拗ねてたけど…俺だって、本当はもっとずっと一緒にいたかったし…」 「…本当?」 「本当。」 「じゃ…どうして、あんなに早く帰ってたの…」 「鈴亜(りあ)は、みんなに愛されてるから。」 「……」  意味がわかんなくてキョトンとしてると。 「鈴亜(りあ)には黙ってたけど…朝霧(あさぎり)さんにつきあってる事、言ったんだ。」 「……父さんに?」  初耳。 「そしたら、門限を言い渡されて。」 「……」  父さんたら! 「でも、結婚したらずっと一緒だしって。そう思ったら、大して苦にはならなかったんだ。」 「…あたしには、苦痛だったわよ…」 「……」 「まこちゃん、本当にあたしのこと好きなのかなって…いつも不安で…」 「…ごめん…」 「でも、あたしはまこちゃんが大好きで…なのに、あんな…他の人と遊んだりして…」 「…それは、もういいから。」 「あたし…」 「ん?」 「こんなあたしでも…いいかな…」 「……」 「遅くない?あの時のプロポーズ…受けても…」 「鈴亜(りあ)…」 「まこちゃんとなら、一生青春だなって…気付いた…」  あたしは、まこちゃんの目をまっすぐに見つめる。  この気持ちに嘘はない…って、気持ちを込めて。 「幸せに、するよ。」  まこちゃんが、そっと…あたしの手を取って言ってくれた。  胸がいっぱいになって、言葉を探してると。 「まーた、身内が増えた。」  ふいに、頭上から声が…  まこちゃんと二人して顔をあげると、SHE'S-HE'Sのみなさん。 「これで光史(こうし)とまこは義理の兄弟だもんな。ますます身内バンドだよ。」 「こうなりゃ、とことん身内で固めるとするか。」 「今度は子供同士を結婚させたりして…」 「早いうちに許嫁とか決めたりしとく?」  ……  まこちゃんと、顔を見合わせてしまった。  あたしが首をすくめて笑ってると。 「よかったな。」  お兄ちゃんが、あたしの頭をくしゃくしゃにして…そう言ったのよ…。  14th 完
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