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「きみ、初めて?」
うっわ…
佐和が踊りに行ってしまって。
一人カウンターに残されたあたしの周りに。
男の人が一人二人…
どうしよう。
まんざらでもないけど…
こんな世界、初めてで…
「踊らない?」
「あ…あたし…踊ったことなくて…」
少しだけ、はにかんで答えると。
「大丈夫。リードしてあげるから。」
まこちゃんと同じ歳くらいかな…
遊んでるって感じの男の人が、あたしの手を取った。
「きみ、名前は?」
「り…鈴亜。」
「鈴亜?変わった名前だな。俺は邑。」
「…本名?」
「ああ。」
邑さん…ね。
「鈴亜、彼氏とかいる?」
軽いステップを踏みながら。
「えー…」
なんだか、答えをしぶってしまった。
「ん?どっちだよ…って、こんなに可愛かったら、いても不思議じゃないよな。」
「そんな…」
「モテるだろ。」
「まさか。」
「ほんとか?」
…やだ。
楽しい。
本当に、楽しい。
まこちゃんとは静かなデートが多いから、当然こういうきらびやかな空間には来たことがなくて。
だから…余計、のぼせてしまう。
「鈴亜ー、踊ってるんだー。」
ふいに、佐和がやってきて。
「あ、邑さん、こんにちはー。」
なんて、挨拶してる。
…邑さんて、有名人?
「ああ、佐和の友達?」
「そう。」
あたしは、佐和と邑さんを見比べる。
佐和は、あたしの腕をとると、耳元で。
「あんた、すごい人に気に入られたね。邑さん、この辺じゃ誘われたい人No.1だよ。」
って…
「……」
あたしは、佐和の顔を見る。
「いいじゃん。邑さん、素敵な人だよ?若いうちから一人にしぼらなくたっていいじゃない。こういうのは、浮気じゃないんだから。」
「で…も。」
「誰が彼氏に言うの?誰も言わなきゃわかんないんだし、あんたもちょっとは遊ぶべきよ。じゃ、あたしはあっちで踊ってるから。」
佐和は言うだけ言うと、金髪の男の子と抱き合いながら、人の波に消えて行った。
「……」
どうしよう。
そりゃ、まんざらでもないけど。
こういう世界もあったんだ…って、のぼせちゃうけど…
「鈴亜?」
ふいに肩に手をかけられて驚く。
「あっ、あ…なな何?」
「何って、踊ろう。チークタイムだ。」
「え…」
腕を引き寄せられる。
腰に腕をまわされてー…くすぐったい。
「そんなに硬くならないで…そう、力抜いて…」
邑さんの声が、耳元に。
どうしよう。
ゾクゾクしちゃう。
まこちゃんとでさえ、こんなこと…
「…かわいいな。」
やだ。
この人の声って、色っぽい。
「キスしていい?」
こんなところで?って思ったんだけど、横目で周り見ると、みんなキスしてる。
…でも、あたしには、まこちゃんという彼氏が…
「……」
拒む前に、唇を重ねられてしまった。
ドキドキしてる。
まこちゃんとのキスより、ずっと…ドキドキしてる。
「…また会える?」
心の中でまこちゃんに手を合わせながら。
あたしは、邑さんの言葉に頷いてしまった…。
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