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彼じゃないとダメなの
「なーに、ため息ついてんのー?」
ダリアで声をかけられて。
顔をあげると…
「聖子ちゃん…」
幼馴染の、聖子ちゃん。
お兄ちゃんのバンドでベースを弾いてて…まこちゃんと同じ歳。
今年の六月、結婚した。
「花の女子高生が、一人で何してんの。」
「聖子ちゃんは?」
「あたし?あたしは打ち上げ。」
「…打ち上げ?」
「うん。録り終わったから。あ、光史も来るよ?」
まずい。
じゃ、まこちゃんも来るんだ。
慌てて席を立ちかけると。
「まあまあ、座りなって。」
聖子ちゃんが、あたしの肩をおさえた。
「でっでもああああたし…その、用が…」
「まこちゃんに会いたくない?」
「えっ……?」
聖子ちゃんは、あたしの向いに座ると声をひそめて。
「まこちゃん、ものすっごく落ち込んでるわよ。」
って…
「…まこちゃんに聞いたの?」
「もう、さんざん酔わせて聞き出したの。大変だったのよぉ?まこちゃん、結構強いんだもん。」
「……」
「うちのバンドの中で一番冷静な人間だからね。あんまりイライラされたりどんぞこまで落ち込まれちゃマズイわけよ。」
聖子ちゃんは、そう言いながらあたしの鼻をつんと押した。
…あたしは、何も言えなくて…俯く。
「まこちゃんのこと、嫌いになった?」
「そんな!」
思わず大きな声を出してしまって。
顔をあげると、聖子ちゃんは笑顔。
「あたし、自分でもわかんない。どうして、あんな…まこちゃんじゃない人と遊んで楽しいって…」
「それは、普通じゃない?」
「…え?」
「あたしだって、京介じゃない男と一緒にいて楽しいって思うことあるわよ?」
「…でも…」
「まこちゃんがショックだったのはね。」
「…うん…」
「自分との結婚が青春の終わりって言われたこと。」
「……」
「他の男の子と遊んだりするのだって、正直に言えばまこちゃんは許してくれるわよ。大きな心の持ち主だからねー。」
黙ったまま、聖子ちゃんを見つめる。
「それに、鈴亜のこと、一番に想ってる人よ?鈴亜が楽しければ、それがいいって思うに決まってるじゃない。だから、終わりにしようって…本当は別れたくないクセにさ。」
あたしは唇をかみしめてうつむく。
自分で…自分がわかんない。
あんなにまこちゃん一色だったのに、突然のように他の男の子たちと遊んでみたり…
まこちゃんに嘘ついてまで…
「意外だったなぁ、鈴亜が結婚断わるなんて。」
聖子ちゃんの言葉に、あたしはうつむいたまま。
「あたしだって…驚いてる。」
小さく答える。
「ずっとまこちゃんのお嫁さんになりたいって…思ってたのに…あたし、どうかしてた…」
「ちなみにさ。」
「?」
「鈴亜、まこちゃんに対して不満ある?」
「……不満?」
突然の問いかけに、あたしは目を丸くして聖子ちゃんを見る。
「…不満…」
頭の中で、今までを振り返る。
「…まだ一緒にいたいって言うのに、五時には帰らされたり…」
「五時!?そりゃ、早すぎるわね。」
「でしょ?それと…」
「それと?」
「……」
泣きたくなってしまった。
あたし、本当に想われてたのかな。
「あたしは、みんなにまこちゃんとつきあってるって…言いたかったのに…」
思わず、涙ぐむ。
「まこちゃんは、秘密にしたがった?」
聖子ちゃんの問いかけに、頷く。
「お兄ちゃんにも父さんにも…まこちゃん、本当にあたしのこと好きだったのかな…」
「好きに決ってるじゃない。好きじゃなければ結婚なんか考えないでしょ?」
「あたし、いつも不安だった。不満じゃなくて…不安だったの…」
「……」
「なんか、一緒にいても遠くて…あたしだけが、一人でうかれてるような気がして…」
「寂しかったんだね。」
「……」
「寂しかったから、他の男の子と遊んで埋めてたんだね。」
理由が分かって、少しだけ…気持ちが楽になった。
そうか…
あたしは、寂しかったんだ。
でも、それがまこちゃんを傷付けていいって理由にはならない。
あたし…本当にバカだった…
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