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【こんな日にすみません。荒川くんの担当顧客でトラブルがあったようです。】
【遥さんも補佐で入ってたと思ったので、念のため報告しました。でも、遥さんは気にせず楽しんでください】
【俺がなんとかしますか、】
荒川くん……入社二年目の子だ。『なんとかしますか、』って何だろう。誤字だとすれば、結構焦っているのではないだろうか。
「どうかした?」
一弥に訊ねられ、無言で画面の内容を見せる。一弥は渋い顔で小さく唸った。
「気になる、よね。行ってくる?」
「いや、でも……」
料理はまだ残っているし、楽しみにしていただけにこの場を去るのは苦しい。だからといって、原田くん達を見捨てて自分だけ楽しむこともできない。
「俺の好きな遥なら、迷わず行くと思うよ」
一弥はそう言って眉尻を少し下げて笑った。その表情が、去年別れた恋人に重なって、鳩尾のあたりがずきんと痛む。
「俺は、待てるよ。何年待ったと思ってる? これくらい、何ともない」
それに、と一弥はにやりと笑う。
「残った料理は俺が食べとくから気にしなくていい」
「ずるい。私も食べたかった」
私は精いっぱいの笑顔を作って、腰を浮かせた。
「できるだけ早く帰るから」
こんなことなら、いつものパンプスにすればよかった、と後悔しながら、店を出て、私は駆け出した。
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