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20時閉店のジュエリーショップには、私たち以外の客はいないようだった。前回担当してくれたお姉さんが、お待ちしておりました、と相変わらずの笑顔で出迎えてくれる。
二人並んで腰かけると、目の前に重厚感のある真っ白な箱が置かれた。お姉さんは白い手袋を嵌めて、ゆっくりとその箱を開けた。
白銀の指輪が二つ、寄り添うように並んでいた。
お姉さんはその指輪をそっと手のひらに乗せて、私たちに見せてくれた。指輪の内側には私と一弥のイニシャルが刻まれている。
「よろしければ、お互いにつけてあげてはいかがですか?」
「え、いいんですか? 素手で触っても」
「もちろんです。もう、お二人のものですから」
お姉さんはそう言うと、私の指輪を一弥に手渡した。
一弥は私の左手を自分の右手の上に重ねる。
そして、ゆっくりと薬指に指輪を通した。
ふーっと息を吐いて、そこで初めて自分が息を止めていたことに気が付いた。
お姉さんはすかさず私に一弥の指輪を差し出してきた。
指輪を持つ手が震えるのを反対の手で落ち着かせようとしていると、一弥は自分の左手を私の前に突き出した。薬指の付け根まで押し込んで顔を上げると、一弥が優しい表情で私を見つめていた。
「指輪、そのままして帰られますか?」
あ、はい、と返事をすると、お姉さんは手早く指輪の入っていた白い箱の蓋を閉め、その箱がちょうど入るくらいの紙袋にしまって渡してくれた。
帰り道に手を繋いだら、一弥の薬指にある冷たいものに指先が触れた。
「遥、超緊張してたね。結婚式で指輪落としそうだな」
「うるさいな。でも、今日練習できたから、次は大丈夫だよ」
そういえば春に結婚式挙げるって言ってたっけ。
そろそろ準備しないとまずいよね、と言ってみると、一弥は驚いていた。
「指輪のことで頭いっぱいだった。帰ったら勉強する」
どうやらコンビニで購入した結婚情報誌は一弥の部屋にあるらしい。
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