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顧客訪問を滞りなく終え、レストランの最寄り駅に降り立った。 近くのファッションビルのトイレに立ち寄り、着替えを済ませると、若くて可愛い女の子たちに気後れしながら軽く化粧直しをする。食事するからすぐに取れちゃうだろうけど、コーラルピンクの口紅をひいた。 待ち合わせ場所で一弥と合流して、レストランに入店した。今年はちゃんと来られてよかった。細長いグラスを合わせて乾杯をして、いつもより上品な色合いの黄金色の液体を一口含む。 「遥とこんな店来るの初めてだよな」 「そうだね。いつもは居酒屋だもんね」 慣れない店の雰囲気のせいか、一弥もそわそわとしている。残り半分だったシャンパンを一気に飲み干した一弥と目が合った。 「今日の遥、綺麗」 「……あ、ありがと。この服気に入ってるの。素敵な店だから、ちょっと気合入れちゃった」 「そっか。それが俺の……今日のためだっていうならめちゃくちゃ嬉しい」 唐突に甘い空気を醸し出され、グラスの底から泡を吐き出し続けるシャンパンに目を移す。 「だって、今日すごく楽しみだったから」 グラスを一気に傾けて飲み干す。喉が熱くなる。 空になったグラスを見て、店員が飲み物のオーダーを取りに来た。赤ワインを頼んだ一弥に、私もそれを、と同調した。 前菜のプレートがキレイになった頃、小刻みにスマートフォンが震える音がした。同時にポケットの中が震えて、音の正体は自分のものだったことに気が付く。電話ではないようだから、メッセージを受信しているのだろう。 「ごめん、私のだ」 テーブルの下でこっそりと確認すると、原田くんからメッセージが何件か届いていた。
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