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営業所に現れた私の姿を見て、荒川くんと原田くんは驚いた後、心底ホッとした顔をした。そんな顔をしながら、原田くんはなんで来ちゃったんですか、なんて言うから笑ってしまった。 状況を確認すると、顧客側で送信したはずのデータが送り先に届いていない、ということだった。すでに開発チームに連携を取り、調査をしてもらっているそうだ。 営業の立場だと、中身のことはわからないのでこういうときに何もできないのが心苦しい。 幸い、顧客側の作業は全て終了しており、今のところ大きな迷惑はかかっていない。ただ、そのデータを21時までに受け渡さないと、送り先のほうで処理を止める必要が出てくるらしいのだ。 ちらりと時計に目をやると、もうすぐ20時になろうというところだった。あと一時間か。 「私、ここで連絡待ってるから、ご飯でも買ってきなよ。食べてないでしょ?」 「遥さんは? 何か買ってきますか?」 財布をポケットに突っ込みながら腰を上げた原田くんに、首を横に振った。 「私はちょっと食べてきたし。大丈夫。あ、でも、お茶買ってきてもらえると助かる」 了解っす、と言って原田くんは荒川くんの背中を押しながら出て行った。 一人になったら、足の小指が急に痛くなってきた。誰もいないことをいいことに、そっと足を開放する。やっぱりこの靴で走るべきではなかったな、と足をさすっていると、近くの内線が大きな音を出して鳴った。慌てて靴も履かずに受話器を上げた。
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