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「……はい、東京営業所の瀬野です」
『あ、瀬野さん。いらしてたんですね。開発の杉山です。原田くんから連絡もらった件ですけど、このまま話して大丈夫ですか?』
「――というわけなので、もうまもなく処理終わると思います」
「なるほど、了解です。ご対応ありがとうございます」
「いえいえ、完了したらまたご連絡しますね」
受話器を置いて一息つくと、原田くん達が戻ってきた。
「あ、連絡きました? どうでした?」
「なんか途中で処理が止まっちゃってたみたいで、再実行かけてるところらしい」
よかったー、と荒川くんがようやく笑顔を取り戻した。
「じゃあ、こんなに買わなくてよかったですね」
荒川くんはコンビニで買ったにしては大きな袋を提げていた。
机の上にサラダ、チキン、ピザ風のパン、そしてケーキを並べた。
「もう今日は帰れないかと思って、それならここでクリスマスっぽいの食べなきゃと思ったんですよね」
原田くんと顔を見合わせて、こいつは大物になるな、と囁き合った。
荒川くんがあっという間にサラダを平らげ、幸せそうにチキンにかぶりついているところに、再び内線がかかってきた。
「あ、本当ですか。こんな時間までありがとうございます。はい、では」
原田くんは受話器を置くと、歯を見せて笑った。
「処理ちゃんと終わったみたいです」
すぐにデータの送信先にも確認を取ってもらい、顧客にもその旨を報告して、事態は収束した。
荒川くんはチキンを平らげ、パンに手を伸ばそうとしていた。
「ふふ、ワイン欲しくなっちゃうラインナップよね」
「そうですね。あ、でももう帰れますよね。せっかくですし、飲みに行きません?」
荒川くんは掴んだパンとケーキをコンビニの袋に戻した。
「あ、ごめん。私は今日は遠慮しとくわ。少なくて申し訳ないけど、これで楽しんできてよ」
財布から五千円札を引っ張り出して机に乗せた。
時刻は20時半。一弥はあの後どうしたのだろう。
それじゃ、とコートを着てオフィスを出ようとすると、原田くんに腕を掴まれる。
「遥さん、靴忘れてますよ」
……恥ずかしい。
「やだ、どうしてこうカッコつかないのかな」
「瀬野さんって、かっこいいのにかわいいですよねー」
荒川くんにくすくすと笑いながら言われ、もういたたまれない。
今度こそ帰るから、と言って逃げるようにその場を後にした。
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