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オフィスを出て、一弥に電話をかける。
『……無事?』
「うん、無事。これから帰るけど、もう家?」
『うん。早く帰っておいで』
電話を切ると、私は駅までの道を歩き出した。
足が痛くて、思うように進めない。もどかしい。
早く一弥に会いたいのに。
やっとの思いで駅にたどり着き、電車に乗り込む。
車内は意外と混みあっていて、座れそうになかった。
【早く会いたい】
気持ちを抑えきれず送ったメッセージはなかなか『既読』がつかず、送らなければよかった、と後悔しながら目を閉じた。
ドン、と背中を押され自分が眠っていたことに気づく。ぶつかった人は、こちらをちらりと見ると軽く頭を下げて電車を降りていった。立ったまま上手に寝られるようになったな、と自分を褒めてやる。
電車の外に目をやると、もう次が降りる駅だった。スマートフォンを確認すると、『既読』はついているものの、一弥からの返信はなかった。大きな溜息とともに再び開いたドアから電車を降りた。
もう足が限界で、ゆっくりとしか歩けない。
のろのろと改札を通過し、家に向かって歩みを進める。
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