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「遥!」 急に腕を掴まれ、バランスを崩した私は一弥の腕の中に収まった。 「なんで……」 「そりゃ、俺だって早く会いたかったし」 ぽろぽろと涙が零れて、一弥のグレーのコートに染みを作っていく。 「遥……どうした?」 「……足が、痛い」 他にもっと言うべきことがあったはずなのに、よりによってどうしてこの言葉が出てきたのか。子どもみたいに泣きじゃくる私を一弥は少しだけ困った顔をしながら見守っていた。大きな手が背中を優しくさすってくれる。 「遥、歩ける?」 「この靴じゃなければ」 一弥は私の足元に目をやり、ああ、と言った。 「ちょっとだけ待ってて」 一弥は私の頭を撫でて、走り去っていった。一人残された私は、鞄からタオルを取り出して涙を拭った。 きっと今、ひどい顔してるんだろうな。 苦し紛れに冷えた指先で瞼を押さえていると、一弥がコンビニの袋を提げて戻ってきた。 「ごめん、こんなのしかなかったわ」 そう言って一弥は袋からスリッパを取り出して、足元に並べた。 パンプスを脱ごうと片足を上げると、そっと腰を抱えて支えてくれる。 スリッパは少し大きくて、つま先が出ちゃいそうだけど、それでも痛いのよりはマシだった。脱いだパンプスはコンビニの袋にしまった。 「一弥、ごめんね」 「そこはさ、ありがとうでいいんだよ」 「うん……うん、ありがとう」 それから、私がする荒川くんの話を一弥が笑いながら聞いてくれて、そうやって家に着いた頃には足の痛みは引いていた。
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