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隣に一弥、正面に母、そしてその隣に父が座っている。
「えっと、一弥とお母さんたちは面識がある……?」
恐る恐る訊ねると、母に何言ってんのよ、と笑われる。
「裏の春川さんのとこの一弥くんでしょ」
「え? 一弥は私の会社の同期で……ええ?」
頭を抱えながら一弥のほうを見ると、やはり気まずそうな顔をされた。
「通り一本挟んだだけなのに、小学校は別だったから忘れちゃったのかしら。お母さんたちは一弥くんには結構お世話になってたの。ほら、お父さん腰やっちゃったでしょ。それから力仕事とか手伝ってくれたりしてて」
母はふふふと笑い、父はその隣でにこにこと頷いた。
えっと、なんだこのアットホームな雰囲気。いや、私の家だけどさ。
「それで、遥が紹介したい人っていうのが、一弥くんなの?」
そう言った母は私と一弥を交互に見て目を輝かせている。
「はい。おばさん。いや、お義母さん。実は遥さんと先日入籍しました。ご報告遅れて申し訳ありません」
「やだぁ、一弥くんにお義母さんって呼ばれるなんて、照れちゃうわ」
デレデレした母をどんな顔で父は見ているのだろうと視線を送ると、父もまた私を見ていた。目尻に皺をたくさん作って父は微笑んだ。
「一弥くん、遥はわがままで扱いにくいと思うけど、よろしく頼むよ。大事にしてやってくれ」
「はい、もちろんです」
一弥が返事すると、父の目にうっすらと涙が滲んだ。ほとんど見たことのない父の涙に、私の涙腺も緩んでしまう。
「お父さん、お母さん。これまで育ててくれてありがとう」
ドラマとかで見るたびにこんなクサい台詞よく言えるな、なんてバカにしていたのだけれど、意外とすんなりと口から出てしまうから不思議だ。
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