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あんなに心配していた結婚報告は、涙こそあれ波乱なく終了した。 春川家への挨拶は、一弥が事前に話をしていたのか、一瞬で終わってしまった。一弥のお母さんは溌剌とした女性で、そういえばこんな人だったなと古い記憶が蘇った。お父さんは、一弥と目元がそっくりで、一弥も歳を取ったらこうなるのだろうな、と想像してしまえるほどだった。 瀬野家に戻ってきた私たちは、ソファーに並んで座って母が淹れてくれたお茶を飲んでいた。 「そうして並んでると昔を思い出すわね」 ゆったりとした声に振り向くと、母が子どもの頃のアルバムを手にして立っていた。 「ほら、これ。遥と一弥くん」 泣き腫らした顔の私と不機嫌そうな男の子が手を繋いでソファーに座っている写真を見せられた。たしかにこの真っ直ぐな眉毛は、今の一弥と一緒だ。写真と一弥をまじまじと見比べていると、恥ずかしそうに顔を背けられた。 「ねぇ、一弥。私のソファーと壁の間に隠れる癖、知ってた?」 「……この前もやってたよな」 一弥は目を細めて笑った。 ソファーと壁の間に座り込んだ私を引っ張り出して、手を繋いでソファーに座る。この写真はその一連の流れの最後の部分なのだろう。 私を見つけてくれていたのはハルくんじゃなくて、一弥だったという事実は、すとんと胸の中に落ちてきた。 「この頃の遥、お隣のハルくんが引っ越しちゃって元気なかったのよね。そしたら一弥くんが毎日のようにうちに来て、一緒にいてくれたの。本当にかわいかったわ、俺が結婚してやるから元気出せよとか言って、タンポポの花束持ってきてくれたときは……」 「ちょっとおばさん、その話はもう……」 一弥が顔を真っ赤にしているのもお構いなしに、母はアルバムをめくって花瓶に生けられたタンポポの花束というのを見せてくれた。ちゃっかり私もその写真に写っていて、さっきの写真とは打って変わってすごく嬉しそうな顔をしている。
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