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「遥さん、おはようございます。あ、春川係長って呼んだほうがいいですか?」 原田くんが揶揄うように挨拶をしてきた。私はこの4月から、主任から係長に昇進した。今までより管理者としての立ち回りが多くなることもあり、既存の顧客は徐々に引き継いでいた。そのこともあって、思い切って春川姓を名乗ることにしてみたのである。 「今まで通りでいいってば。原田主任」 「やっと追いついたと思ったのになぁ」 「期待してるよ」 原田くんも同じくこの春、昇進したのだ。彼は優秀だったし、もっと早くにこのポジションについていたっておかしくなかったけれど。 「一弥さんいないとやっぱ寂しいですね」 「私は家に帰れば会えるから寂しくないよ」 「あ、惚気ですか」 「いいでしょ。たまには」 胸ポケットに入っているビニールの感触をそっと確かめる。 寂しがってなんかいられない。 一弥に負けないくらい稼いでやるんだから。 完
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