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「夕河く────ッ!!??」
──ズキィィィッッ!!!
「…朝麻せん、ぱい?」
突然、身体に雷が落ちたかのような衝撃を襲った。
まるで鋭く激しく突き刺されるような痛みが自分を蝕んで。
冷や汗が身体中をブワッと一気に伝う。
「あ"あ"ァァッ!!」
「っ朝麻先輩?!」
あぁ、この痛みは、胃、から。
今までにも胃の痛みはあったけど、今回はどう考えてもそれを大きく上回っている。
昨日の吐血がダメ、だったのか?
こんなの、今まで一度もなかったのに。
あまりの激痛に胃を抑えるように腕を抱きしめて身体をくの字に曲げるも、耐え切れず悲鳴が口からこぼれ落ちた。
あぁ、この痛みを早く何とかしないと。
夕河くんに心配をかけてしまう。
はやく、はやく収まってくれ。
いつもならこんなに痛くなかったじゃないか。
だからはやく、落ち着いてくれよ。
これ以上心配かけさせたくないんだ。
「はぁはぁっ、あ"ぁ"、う"ぅ"…はぁぅぁあ"あ"!!」
「い、いきなりどうしてっ。朝麻っ、朝麻先輩しっかりしてください!!」
夕河くんの焦る言葉が聞こえる度、自身も焦る気持ちを煽られる。
早くこの痛みをどうにかっ、しないと。
じゃないと…っ。
ズキッ、ズキィィッッ!!
「ゔぅ、ゔっ─」
でも胃の発する痛みは落ち着くどころか増すばかりで、息をするのも辛かった。
我慢したくても、限度を知らないその痛みに悲鳴に近い呻き声を止めることが出来なかった。
こんな痛み、知らない、しら、ない!
今まで、こんなに痛かったことなんて、なかった、のに。
どう、どうし、よう。
どうしたらこの痛みがひくんだ。
痛みで発汗した汗が鼻先に伝いヒタリと落ちる。
そんな時、だった。
「─ゴホッ!ゲホッゴホッ!ヴッ、ガハッ!!!」
ビシャリ!!
「…………ぇ。」
口から、大量の血を吐いてしまったのだ。
手で口を強く抑えていたはずなのにそれは意味をなさず、己の手からこぼれ落ち、木製のフローリングを赤黒い色の血で汚していった。
そんな突然のことに夕河くんは最早絶句し固まっていた。
かくいう自分はサッと血の気が引きながらももう気を失いそうで。
そのせいか、身体に力が入らなくなってきて。
…やっちゃった、な。
昨日の今日で、まさか連続でとけつしちゃうだなんて、さ。
心配、かけたくなかったのに、こんなんじゃもう無理だよ。
吐血だけは、夕河くんの前でしたくなかったのに。
ねぇ、どうして?
どうして神様はやっぱり、そんな意地悪をするの?
俺はただ普通に過ごしたいだけなのに、どうして…っ。
「カヒュッ、ヒュー、ヒューッ─。」
ドサッ
血を吐いたのがトドメを差したのか、もう身体支えることが出来なくなって、その場に俺は倒れた。
その上、口から漏れる呼吸音は変な音を鳴らし、呼吸も息苦しかった。
あぁ、意識がもう、朦朧だ。
ダメなんだ。
もう、どうにもできない。
意識が本当に、飛んじゃいそうだ。
ダメ、なのに。
これじゃあ余計、夕河くんに、心配かけさせてしま、う。
「─ッ!!!??そ─ッ!──先輩!朝麻先─!!!」
必死に俺の名前を呼ぶ夕河くんの声。
でもそれももう、掠れるようにしか聞こえなくなってしまっていた。
視界ももう、霞んで。
「ヒュー、ヒューッ、ゆっ、かわくっ、ゲボッゴホッ!」
落ち着いて欲しかった。
上手く呼吸が出来てないながらも何とか言葉を絞り出そうとする。
俺、上手く、名前を呼べた、かな。
一瞬だけ、夕河くんがいるであろう方角に視線を向ける。
霞む視界に映る夕河くんは焦っているようで、また今にも泣き出してしまいそうだった。
でも、そう、だよな。
突然痛みにもがいたと思えば血を吐き出し倒れるもんだから。
俺だって、焦る。
本当に、夕河くんには悪いことをしたと思う。
こんな、迷惑なこと、を。
…ははっ、こんな迷惑、かけるはずじゃなかった、のに。
ごめん、ごめん、ね、夕河くん。
「──!!あ───!!そ─きゅ────!!!!」
ねぇ、夕河くん。
夕河くんは、どうしてそんなにも、俺に優しく、暖かく接してくれる、の?
こんなどうしようもない俺に、なんかにさ。
「─ごめ、ね────……。」
「─────!!!!!」
もう、瞼が重くて開かない、や。
夕河くんの、必死に俺を呼ぶ声がフェードアウトするかのように、静かに音が聞こえなくなり、そのまま意識を手放した。
─ドクン……
第10話 終
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