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「─いただきます!」
「はい、どうぞ。」
カチャ、、パクッ
「─!え、めっちゃくちゃ美味い!!
朝麻先輩、これ、俺が作る炒飯よりも何倍も何倍も美味いです!
やっぱり予想通り朝麻先輩の作るご飯は絶品ですね!」
「クスッ、あぁ、ベタ褒めしてくれてありがとうな。嬉しいよ。」
キラキラと目を輝かせながら言う夕河くん。
やっぱり、こうして笑顔で幸せそうに食べる姿は好きだ。
見ていて気持ちがいっぱいになる。
自分が作った料理をこうして食べてくれること、それがどんなに嬉しいことか。
「はい!レモンの酸味が炒飯のくどさを和らげていてとても食べやすいです。
それに、シャンタンに様々な調味料がバランスよく効いてますし、何より玉ねぎがマイルドさを出していてこれまた美味しいです。
あとは、微塵切りにした紅しょうがを満遍なく振りかけているのがよりアクセントをつけていて最高です。」
「ははっ、本当に夕河くんは褒め上手だなぁ。
そこまで言われて嬉しく感じずにはいられないよ。
だから、どんどん食べてね。」
嬉しい。嬉しいよ。
沢山の感想を聞けて。
沢山褒めてもらえて。
…それなのに、どうして俺は、泣きそうなん、だ?
どう、して。
目の奥が、どうしようもなく熱かった。
それが泣きそうなことである証で、それを俺は、認めたくない。
我慢しろ、我慢だ、俺。
ここで泣くなんて、ダメだ。
「褒めるのは当たり前です。
だって本当に、本当に美味しいです、この炒飯。
俺、朝麻先輩の炒飯食べれて本当に幸せです!」
「ゆう、かわ、く…っ。」
ポタッ
あぁ、泣くなって言った、のに。
どうして我慢が出来ないんだ、俺は。
泣きたくないのに。
また、夕河くんに迷惑かけてしまう。
そう思うのに、全然、涙が止まってくれないんだ。
「せ、せせ先輩?!
え、あの、えぇ!?
な、なんで、泣いてるん、ですか?
俺、なにかしちゃいましたか?」
ほら、やっぱり夕河くん気づいてしまった。
酷く驚いて動揺して、さ。
「ち、がう、違うんだ。
夕河くんは、何もしてない。
俺、俺がただ、勝手に泣いてしまってる、だけ、なんだ。
だから、気にしないで、くれ。
俺は、大丈夫、だかっ、ら。」
これはただ、なんの意味もなく流れてる涙だか、ら。
「─先輩」
─ギュ
「…ゆ、かわ、くん?」
暖かい。
突然、何かに優しく包まれた。
最初はそれが何か分からなかったけど、その正体にすぐに気づいて。
夕河くんに抱きしめられたみたいだった。
「大丈夫、大丈夫です。
無理、しないでくださいって俺、言ったじゃないですか。
なんでもないって、理由があるから朝麻先輩は今、泣いているんですよね。
それに俺、言いましたよね。
朝麻先輩の助けになりたい、って。」
「…!おれ、は……。」
夕河くんの、酷く暖かい温もりを感じながら、言葉を受ける。
その言葉に、自分がなんで泣いてるのか。
その答えが、わかってしまったんだ。
俺は、美味しいなんて言葉、聞きたくなかった。
本当はもう、誰かに料理を振る舞うなんてしたくなかったんだ。
だって、思い出してしまうから。
木綿治さんとの、沢山の幸せな思い出を。
食卓を囲んで、笑顔で幸せに、談笑しながら食べたあの景色。
「朝麻先輩、どんな事を言われても何があっても俺は、貴方を受け入れます。
俺が全部、受け止めますから。」
本当に、言ってしまっていいのだろうか。
1度は言いやめたこと。
それを結局、夕河くんに。
もし言ったとして、迷惑にならないだろうか。
嫌われない、だろうか。
幻滅したと、気持ち悪いと、言われたりしないの、かな。
でも、そう思うのに、夕河くんになら言ってもいいと思っている自分もいたんだ。
だって、夕河くんが言うんだ。
どんな事を言われても何があっても、受け止めてくれるって。
だから俺は、夕河くんの言葉を信じたいと思う。
抱きしめられた身体を解いて、俺は言う覚悟を決めた。
「……夕河くん、俺ね、つい昨日まで、木綿治さんって男の人と付き合ってたんだ。」
「…ぇ。」
目を見開き口を小さく開ける夕河くん。
うん、やっぱり驚くよね。
突然そんなこと言われたら誰だって同じ反応をする。
ましてやさ、自分が大好きだと言ってた先輩がそれなんて、尚更だ。
本当に、申し訳ない、こんな先輩で。
「木綿治さんとは7歳差で、ゲイバーって出会って。
とても優しくて暖かい人だった。
俺が落ち込んでる時はいつも傍にいて、色んな言葉をくれて、暖かな温もりの笑みも優しさもいつも俺を元気にしてくれたんだ。
そんな木綿治さんだったから、気づけば俺は次第に好きになっていた。」
こんな暗くて冴えない自分に、木綿治さんは本当に優しかった。
自分の知らないことも沢山教えてくれて、嬉しかったんだ。
楽しそうに話して笑顔を見せてくれる姿に、気づけば俺はドキドキとときめいていて。
擦れて疲弊した心に木綿治さんの優しさは、あっという間に絆されて恋の花を咲かせた。
「無理だと思ってた。
こんな自分を好きになってくれるとか。
俺には何もひいでた才能もなければなんの取り柄もない冴えないやつだったから。
でも、それなのに木綿治さんは俺の事を好きになってくれたんだ。」
本当に、あの時は驚いた。
こんな俺に木綿治さんが好きになってくれるなんて思わなくて。
だって、俺と木綿治さんじゃ住む世界が違うんだ。
木綿治さんは役職を持っていて、部下に恵まれ慕われている。
でも俺は?
俺は冴えないし会社じゃ叱られてばかりで居場所もなくて孤立してる。
あまりにも違いすぎる。
あまりにも、不釣り合いだった。
だから何も期待せずいつか終わるその時までを見続けていたんだ。
あの時は沢山泣いたな。
信じられなくて、でも、それ以上に嬉しくて。
木綿治さんに抱きしめられ、それを縋るように抱きしめ返してさ。
「木綿治さんと過ごす日々は凄く幸せだった。
いっぱい手を繋いで笑いあってハグをして。
贈り物をしあったな。
とにかく、沢山愛を育んだんだ。」
初めて出来た恋人。
あんなにも、俺の事を思ってくれる木綿治さん。
そして、木綿治さんと過ごした暖かい日々。
それが本当に、幸せだった。
…そう、だったん、だけど、なぁ。
「でも、そんな幸せな日々は続かなかった。」
「…!」
「木綿治さんは俺の作るご飯を美味しいと言わなくなって、俺の作るご飯を次第に食べなくなったんだ。
そしたら今までの関係は一気に崩れて、最後には…っ。」
(あぁそうだよ。俺はもうお前のことなんか好きじゃねぇ。
お前は俺にとっていらない存在だ!!)
「なんで、何も気づけなかったんだろう。
もっと木綿治さんの変化に気づいていれば…こんなことにはならなかった、のに。
俺が弱くて、何も出来ないクズだから、木綿治さんは俺のこと、嫌いになったんだ、よね。
木綿治さんはあんなに俺を愛してくれたのに、俺はいつも不安を拭えなかった、から…っ。
俺が……俺、がっ。」
ポタッ
「朝麻先輩っ。」
「だ、大丈夫。大丈夫だか、ら。」
「…無理は、しないでください。」
「あぁ。」
あぁ、また涙が出てきた。
今日何度目の涙だろうか。
あんなに泣いたのにまだ泣けるなんてな。
でも今は泣き崩れるなんて出来ない。
だってまだ、夕河くんに全てを話せれてない、から。
だから、そんな心配そうな顔をしないで、夕河くん。
「それでその木綿治さんとはもう、昨日の晩に別れたんだ。
はっきりともう好きじゃない、嫌いだと言われてしまったから。
だから、俺は別れることに決めた。
これ以上、木綿治さんに迷惑かけたくなかった。
嫌われたくなかった、から。」
好きだからこそ、これ以上嫌われるのは嫌だった。
これ以上に、悲しい別れ方をしたくなかった。
俺自身が、木綿治さんを嫌いになりたくなかったんだ。
今までの幸せなはずだった思い出を全部否定したら、本当に俺は壊れてしまいそうで。
「夕河くん、これが、俺。
男を好きになって、本当にどうしようもなくて役立たずなのが俺なんだ。
ごめんな。尊敬してくれて大好きだという程に慕ってくれてたのに、こんな先輩、で、っ。」
(─朝麻先輩は俺にとって、尊敬する大事で大好きな先輩だから。)
あぁ、嫌われたく、ないな。
折角こんなにも純真に慕ってくれる後輩ができたのに。
でも、こんな男を好きなる俺なんか、気持ち悪いはずだ。
そんな俺のそばにいるなんて嫌、だろ。
「夕河くん、軽蔑、したよな。こんなおr─!!」
ガバッ!!
「先輩は!!…先輩を軽蔑するとか、そんなわけないじゃないですかっ。」
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