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「ゆうかわ、くん?」
いきなりと掻き抱くように抱きしめられた。
誰に?
夕河くん、に。
どうして?
抱きしめられて顔を見れなかった。
でも、悲痛そうに呟く夕河くんに俺は分からなかった。
少なくとも俺は、夕河くんの思い描いていただろう俺と違ったはずなのに。
「確かに、驚きました。予想外な話でした。
でも、だからと言って先輩を軽蔑するとかそんなの、あるわけないです。
俺を!見くびらないでください!
俺は朝麻先輩が好きなんです!
大事で尊敬できる大好きな先輩のままなんです!
だから!俺の好きな人を、好きである朝麻先輩自身が蔑むようなこと、言わないでくださいよ…ッ!」
自分でもわかるように己自身が目をこれでもかと言うくらいに見開いているのを感じる。
驚いてるんだ。
だって、そんなこと言われるなんて思ってもなかったから。
「気持ち悪く、ない、の?」
「そんなことないです!」
「情けなく─」
「情けなくたっていいじゃないですか。完璧な人なんてそうそういないんですから。」
夕河くんの、何言っても全部肯定的な言葉に変えられて。
それがどうしようもなく俺の心を揺さぶる。
嬉しい。
でも、辛い、違う。
なんでなんだろう。
気持ちが矛盾、してる。
「朝麻先輩は、何も悪くない。
朝麻先輩は本当に頑張ってます。
だから…。」
「ッ…お、れ。俺、は、どうしたら良かった、んだ?
どうしたら俺は、木綿治さんと別れずに済んだんだ、ろ。」
あぁ、もう、ダメ、だ。
そんな言われたら、もう、分かんない。
涙がホロリと右頬を伝う。
そして、相変わらず零れるは俺の、木綿治さんに対する未練がましい言葉。
それは、何度考えても答えの出ない疑問。
どうして、木綿治さんは俺の事を愛想尽きてしまったのか。
俺が、何をしてしまったのか、って。
知りたかった。
直したかった。
木綿治さんの望む俺でいたかった。
でも、それはもう、できない…っ。
夕河くんの、未だ抱き締められる体温と温もりが余計に、俺の気持ちを締め付けていた。
「ッ!!………朝麻先輩。」
「なに。」
声にならない声を聞こえたような気がして、夕河くんを見れば顔を俯かせていていた。
どうしたのだろうか、そう思えば名前を呼ばれて。
「朝麻先輩はまだ、その木綿治さんって人の事、好きなん、ですよね。」
「そう、だね。」
どうして、そんなことを聞いてくるのだろうか。
そんなの分かりきってるはずなのに。
でも、いまだ顔を俯かせている夕河くんは何処か苦しそうで、怒れるとかそういうのはなくただ、戸惑うばかりだった。
「…そぅ、かぁ。いや、そうだよ、なぁ。」
「夕河、くん?」
「…っ。」
「ご、ごめん、夕河くん。お、俺なんか、しちゃったんだよ、ね。」
自身の顔に片手を添え上を仰ぐ夕河くん。
こぼれ落ちるように紡がれる言葉は、とても今にも泣いてしまいそうで、それが何でか俺は分からなかった。
そう、分からないけど、自分は何かしてしまったんだと悟らないわけで。
「い、いや、朝麻先輩は何もしてない、です。
ただちょっとなるほどなぁって、思っただけで。」
「なるほど、という、と?」
「…俺、朝麻先輩のこと、尊敬してます。
大事で大好きな先輩です。
だから俺、応援します。」
「っ。」
あぁ。
「朝麻先輩とその木綿治さんって人がまた元に戻れるよう、俺が何とかしてみせます。
ははっ、こういうの俺結構得意なんですよ?」
「…くん。」
違う。
「きっとその木綿治さんて人にも、そう成らざるを得なかった何かの事情があったんですよ。
だから、朝麻先輩に辛く当たってしまったんだと思います。」
「夕河くん。」
俺は、夕河くんにそんな顔、して欲しくないんだ。
そんな─
「でも、そんなの、そこが分かればきっと朝麻先輩も木綿治さんて人もその話してたみたく愛をはぐ、はぐくめますからっ。
朝麻せんp─」
「─夕河くん!!」
ガシッ!
「ッ!…朝麻せん、ぱい?」
そんな今にも泣き出してしまいそうな顔を。
無理して笑顔をとりつくってほしい訳じゃない。
俺なんかのせいで、夕河くんに辛い思いをさせるなんてことも。
夕河くんには、屈託のない、何時もの笑顔でいて欲しいんだ。
無理のしてない、ただただ純粋な笑顔を。
今度は、俺が夕河くんの、肩を掴む番だった。
「お願いだから、そんな自分の気持ちに嘘をついて、無理して笑わないでくれ。
俺は、君にそんな顔をして欲しいわけじゃない。
悲しい思いをさせたかった訳じゃないんだ。」
「ッ…。」
そうだ。
先輩の俺が、大事な後輩に辛い思いさせちゃダメなんだ。
俺がしっかり、しないと。
「夕河くん、俺にとって夕河くんは可愛げがあって頼りになる後輩で、なりより大事な大切にしたいと思える存在なんだ。
夕河くんが俺を助けたいと思うように、俺も夕河くんに何かあれば助けになりたい。
でも、今の俺は寧ろ夕河くんを悲しませてるん、だよね。
本当に、ごめん。」
「違っ、本当に先輩は悪くないんです。
俺が、俺が勝手に。」
「ううん、悪いのは俺だ。
俺が、夕河くんの気持ちを分かってあげられてないから。
だから、無自覚にこうして傷つけてしまった。
それは紛れもない事実なんだ。」
そうだ。
俺は、自分のことで精一杯で夕河くんの気持ちなんて何一つ知ろうとしなかった。
そんな自分に腹立たしく思うし不甲斐なさをも覚える。
俺は、先輩だから。
大事な後輩だから。
俺は、ちゃんと夕河くんと向き合いたいんだ。
「どう、してっ。」
クシャリ、と夕河くんの表情は歪む。
強がって見せていたその様はもう一欠片もなかった。
変わりに見せるのは片目から一筋の涙を零すその姿。
あぁ、あと少し。
夕河くんの本音が、聞ける。
「夕河くん、俺にとって夕河くんは可愛げがあって頼りになる後輩なんだ。
だからこそ、大事で大切にしたいと思える存在でもあって。
君が俺を助けたいと思うように、俺も夕河くんに何かあれば助けになりたい。
寄り添いたいんだ。
だから、隠さないで欲しい。
どんな夕河くんでも俺は、受け入れるから。」
「─ッ!!せん、ぱい…葉那斗先輩!おれ、俺!!」
俺の、夕河くんに対するありのままの気持ちを伝える。
すると夕河くんの目からは止めどなく涙が溢れ出て、俺の顔を今度こそしっかりと見てくれた。
クスッ、夕河くんの泣いてる姿、久しぶりに見たな。
懐かしいような微笑ましいようなそんな気持ちになる。
俺の、大事な大事な後輩。
俺は、君の優しさが、笑顔が好きだ。
それのお陰で俺も元気をいつも貰えてたから。
だからさ。
夕河くんが俺を受け入れてくたように俺を、君を受け入れたいよ。
そう、思っていたのに
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