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『──うっ、うぅぅぅ、ふ…っ─。』
……うん?
誰か、泣いて、る?
というかここは、どこ?
何も見えない暗い空間。
その何処からか聞こえてくる泣き声は、とても辛そうだった。
「誰かいるのかー?」
トタトタ─
『ど、して……なんっ……っ。』
「…子供の、声?」
泣き声の出処を探していて気付いたこと。
それは、子供の泣き声ではないのではないかということだった。
声が高いのだ。
子供独特のトーンの高さに滑舌の柔らかさ。
でも、どうしてこんなよく分からないところで子供が泣いているのだろうか。
はやく、見つけてあげないと。
大丈夫だよって、声をかけて安心させてあげたい。
こんな暗いところ、泣いてしまっても無理はない。
そう、思ったのだ。
『1人は、うっ、いや、だっ…おいてかっ、ないでぇ…グスッ。』
「ッ!君ー!何処にいるんだー!
今俺がそっちに向かうから!
だから君は1人じゃない!安心するんだ!」
寂しがってる。
1人は嫌だと、置いてかないで、と。
誰かに置いてかれてしまったのだろうか。
だとしたら、はやく傍にいて見つけないと。
おいてかれる辛さも寂しさも、よく分かるから。
だから早く、泣く子の傍に─。
『ぼく、をっ……無視、しないでよぉおおっっ!!』
「ッ!?」
ドクリッ
泣く子の、心からの叫び。
それが何故か、酷く俺の心を揺さぶったんだ。
『どうしてい"つもッ、ぼくの周りから人が離れてぐの!ほくはただ!普通に過ごしてるだけなのに"!それッなのにッ、どうっ、じで!!!』
1度心の叫びを吐き出したせいなのか、堰を切ったように続く泣く子の慟哭。
その悲痛な叫びはやっぱり何故か己の心を揺さぶった。
泣く子のことを俺は知らないはずなのに、どうして俺はこんなにも心揺さぶられる?
どうして、その泣く子のことを俺は知っているな気がしている?
『僕をッ、お母さんを置いてかないでよ!どうしてっ、他の女の人なんかをっ、選んじゃったんだよ!
僕たちの方がっ、大切じゃなかったのかよ!!』
「ッ!?」
(ねぇ、おと、お父さん。そ、その、女の人は誰、なの?)
(葉那斗、お母さんね、お父さんと離婚することになったの。だから─)
『お母さん…母さんだけはっ、僕を捨てないって思ってた!のに、どうしで!!!!
ぼぐが!男の子を好きになっだ!だからお母ざんは!!』
(葉那斗だけは信じてたのに!!
なのに…っなのにどうしてお前は!!!)
(─気持ち悪いんだよ…もう、もう二度とお前の作った料理なんて食べるもんか!!
このッ、親大不幸者め!!!)
「…待って、待っ、て……っ。」
『不出来な自分でごめんなさい!役立たずでごめんなさい!男の子を好きになってごめんなさい!いい子じゃなくて、ごめんなさい!ごめんなざい!!もっと!もっどいい子になる!するから!!………だからもう、捨てないで…っ。』
(すまんな葉那斗、俺はお前を愛したことなんて、1度もなかった。)
(─アンタとはもう、親子の縁を切るわ、いいわよね?)
『ひとり、は…やだよっ。』
あぁ、これは。
この子の叫びは
(俺とお前が友達?んなわけないじゃん。
お前は、俺にとってのただ都合のいい奴。たったそれだけの関係だ。)
(濡れ衣だ?はっ、そんなの分かってるよ。分かってて、これをするってことはさ、つまりどういうことか分かるよな?)
(可哀想な奴。)
(あのさ、お前といると俺まで虐められるんだよ。だからもう、関わらないでくれ。)
(お前は無能だ。
無能だからこうして指導してやってるんだろう?てことでこの書類、やってくれよな。)
(俺たちに話しかけるな無能。)
(俺はもうお前のことなんて好きじゃねぇ。)
『うぅ…くっ…ふう、ぅ……ッ。』
ぼくのこころのさけびだ。
…………ずっと、泣いてたんだ。
辛い気持ち、不要な気持ち達に蓋をして今までずっと、見ないふりをしてた。
自分が全て悪いんだと自認して、それでいて、心の叫びから目を逸らし続けて。
全部全部、"ぼく"自身…"俺"自身を守るため、に。
『だれ…かっ……っ。』
─たすけ、て。
ギュ
「ごめん…ごめん、なぁ、ぼく。
ぼくが……俺が弱いせいで、こんな辛い思いをさせて。」
気付けば俺の傍に現れていた、泣きじゃくるぼく。
そんなぼくを、正面から優しく抱きしめた。
元々そうではあったけど、もう、ほっておくなんて無理だった。
それに、今この時、自身と向き合わなければ絶対に俺は後悔する。
そんな気がしたんだ。
『ッ!?……なんでッ、なんで今更!!』
バシッ!!
「…そうだよな。今更、だよな。
俺もそう思うよ。ずっとぼくばかりに辛い気持ちを押し付けて俺は、誤魔化してきてたから。」
『だったら!!』
「でもね、俺はこれからはちゃんとぼくと向き合うよ。
もう、ぼくだけに辛い気持ちを押し付けるなんてこと、蓋ををするなんてことしない。
俺もちゃんと、受け入れるから。」
本当だと思う。
ずっとぼくを蔑ろにして全てを押し付けた俺に、今更何かを言うなんてあまりにも烏滸がまし過ぎた。
叩かれた頬の痛みはぼくの痛みに比べれば全然だ。
受け入れて当然なんだ。
でも、それでも言いたいんだ。
俺の気持ち、俺の覚悟を。
『う、そ…っ嘘だ!!
そんなわけないじゃんか!
ずっとずっとぼくに辛い気持ちを推し続けてきて、一度も向き合おうともしなかったくせに!!
いまっ…今更そんなの!信じられるわけないじゃんか!!!』
「うん…うん、俺も、そう思うよ。
俺だってそんなことされたらきっとぼくと同じことをする自信がある。
でもね、気づいたんだ。
いくら幸せになりたいと願っても、俺自身がずっと逃げ続けてたら何も進めないってことに。」
ぼくの悲痛な叫び。
その全部が全部、紛れもない事実で、俺にとっての罪だった。
逃げ続けたツケは決して拭うことなんて出来ない。
これからもずっと、それは変わらないんだ。
けど、俺は気づいたんだ。
大事なことに。
それがぼくにとっての贖罪になるのなら。
それに、決めたんだ。
「俺は、もう逃げない。
だって、今の俺には、慕ってくれる可愛くて大事な後輩、夕河くんがいるから。」
目を逸らし続けていた。
傷つくのが怖くて。
また、離れていくのが怖くて。
俺はずっと、一方的に壁を作ってたんだ。
(俺の好きな人を、好きである朝麻先輩自身が蔑むようなこと、言わないでくださいよ…ッ!)
(─お前は優しいよ。)
「ずっと、そんなことないって思ってた。
でも、あんな真剣で屈託のない、純粋な眼差しであそこまで言われたらさ、もう、信じるしかない、って思えちゃったんだ。
夕河くんは本当に、俺の事を信頼して、何を言っても、俺のことを嫌いにならない。
夕河くんにとって俺は、大事で尊敬の出来る大好きな先輩なんだ、って。」
俺がどんなに遠ざけようとしても、そんなのお構い無しに夕河くんは俺に近づいてきた。
初めはそれが嫌だった。
でも今は、嬉しくて、木綿治さんで荒れた心を、癒してくれてたんだ。
いつだか夕河くんといると狂う、だなんて思ったけど、それは本当は認めるのが嫌だったんだ。
素直に夕河くんの優しさを受け入れるのを。
甘えたく、なかった。
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