おとぎ話の英雄夫妻に見る結婚の考察

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 自宅以外にアデールが行ける所などエミリアの屋敷くらいしかない。それも、真夜中に押しかけるわけには当然いかない。  アデールは仕方なしに王城へ向かった。  軍の詰所は夜勤もあるので24時間開いている。  門番には自分の顔は知られているだろうから、入城することは可能なはずだ。  ――何事かと思われるのは必至だが。  エリクとアデールは、所謂住宅街の一角にある屋敷に住んでいた為、辺りは既に人通りもなく、街灯の明かりも最小限に留められている。  ほとんど漆黒の闇の中を歩くのは恐ろしかったが、寂しまぎれに空を見上げてみれば、暗闇をぎっしり埋め尽くす星の海を見つけた。  こんなむせ返りそうな星空を見たのはいつぶりだろう。  それどころか、夜にアデール一人で出歩くことすら、コレットが生まれてから一度もなかった。  街の中心部へ近づけば、軒を連ねる酒場の何軒かがまだ営業しており、窓から明るい光と笑い声が漏れ伝わる。  そっと中を覗くと、一日の仕事を終えたのであろう商売人や、派手な姿に身を包んだ若い女性客も目に入る。年頃はアデールと変わらないように見えた。  彼女たちから見れば、アデールは随分とつまらない人生を送っているように見えるのだろうか――そんな卑屈なことを考えた。  街と王城を隔てる大きな川に架かるアーチ橋を渡り、裏門へ回る。  入口に兵士が2人ほど見える。 「こんばんは」  アデールはなるべく不審に映らないように平然を装い門番兵に声を掛けた。 「!? アデール様? どうなさいましたか?」 「昨日、詰所に忘れ物をしてしまって。どうしても必要なものだったから取りに来たの」 「そうでしたか。わざわざこんな時間に……。誰か兵に言ってくださればご自宅までお送りしましたのに」 「いいの、そんなことで皆さんのお手を煩わせるわけにはいかないわ」  うまく誤魔化せた気はしないが、とにかく中に入れたのでアデールはホッとする。  家に居ることはとてもできず飛び出してきてしまったが、結局コレットが起きる時間までには戻らなくてはならない。  夜明け前までは詰所で時間を潰す予定だった。  忘れ物を取りにきてそんなに長時間かかるはずはないのだが、そこまでのシナリオは面倒でアデールも用意するつもりはなかった。  詰所は、先ほど通ってきた住宅街とさほど変わらず静かだった。  24時間体制と言えども、基本的に夜中は何か特別なことがない限りは見張り番の仕事しかない。  アデールは少しホッとした。  夜中にこんなところに逃げ込んできた自身を見られたくはない。  どこか空いている部屋に入ろうと歩き、アデールはクロードの執務室の明かりが、ほんの少し開かれたドアの隙間から漏れていることに気付いた。  クロードはこの時間もまだ働いているらしい。  彼にこそ見られたくない。  どこかもっと離れた部屋を探そう――そう決断し踵を返す。 「アデール」  最初の一歩を踏み出そうとした時、背後から静かに声を掛けられた。  アデールの心臓がギクっという音を胸の中で立てたが、観念して声の方を振り返る。 「クロード……見つかっちゃったのね」  叱られた子供ような顔でクロードを見れば、彼は執務室のドアの向かいの壁にもたれかかりながら、腕を組んでアデールを見据えていた。 「当たり前だ。君のような強い魔力の持ち主はすぐに気配を感じる。君が裏門に居た時からもう分かっていたよ」 「そうだったわね……」  アデールは嘆息する。  忘れていたが、この繊細な魔力でも察知する能力こそ、この男の特殊な才能だった。 「とにかく中に入れ。話を聞く」  クロードは顎を執務室の方へ向けてアデールを促し、先に自身が入室した。  アデールはもっと大きなため息をつく。話をするのは決定事項のようだ。  だから嫌だったのだ、クロードに見つかるのは。
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