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次に目が覚めた時、窓の外は白んできており、早起きの小鳥が早くもせわしく鳴き始めていた。
アデールは全く眠った気のしない重たい体を動かし、クロードの執務室を出た。
クロードに一言声を掛けたかったが、そろそろ家に戻らないとコレットが心配だ。
今日は勤務日なので、また出勤の時にでも今夜のことの礼をしようと考えた。
心配した門番兵への対応も、結局アデールが仮眠を取っている間に交代していたようで、特に言い訳の必要もなく、詰所から出てきたアデールに驚く交代後の兵には訳アリの仕事を匂わせてその場を後にした
。
疲労のせいもあるが、家に向かう足取りは重かった。
どんな態度でエリクと顔を合わせればよいか分からない。
どんなことがあっても、いつものように朝食を出して見送るべきだろうか。
考え込んでいるうちに屋敷の玄関前まで着いてしまった。
音を立てないようにそっとドアを開けると、エリクがアデール以上に疲れた様子で玄関前の壁にもたれて座っていた。
「エリク……」
「おかえり、アデール」
エリクはかすれた声でアデールを見上げた。
どんな時も秀麗なエリクの顔だが、今は目の周りに薄く隈を作って憔悴した様子に見える。
アデールがエリクに出迎えられることなど、結婚してから初めてのことだ。
「ずっとそこにいたの……?」
「あぁ、コレットがいるから家を空けるわけにもいかないし、かと言って君が帰ってくるまでは心配で寝られないから」
ごめんなさい――反射的にそう言ってしまいそうになったが、アデールは代わりの言葉が見つからずそのまま黙った。
「とにかく、君も今日は勤務の日だろう。まだ少し時間があるから眠ろう。俺はソファで寝るから安心して。」
エリクは立ち上がってアデールを促す。
どこへ行っていたのかは聞いてこなかった。彼女の行くところなんてたかが知れているだろうから、聞くまでもなかっただろうが。
アデールは特にかける言葉もなく、素直にコレットが起きるまでの間の時間を寝室のベッドで横になった。さすがにもう眠れなそうだと思ったが、鉛のように重くなった体は横になるだけで随分楽だった。
そして次の瞬間気が付くと、コレットがアデールの上に跨って彼女を揺り起こしていた。
「ママ、おきて。あさだよ」
「え!?」
アデールは慌てて飛び起きた。
窓の外を見れば、すっかり夜は明けきって部屋の中を明るく照らしていた。
眠れないなどと思いつつ、しっかり寝入ってしまっていたようだ。
「コレット、おはよう。すぐに起きるわね。……パパは?」
「パパはおしごといったよ」
時計を見れば普段よりも起きる時間が遅い。
既にエリクは家を出てしまったようだ。
結局、進展も解決もしないまままた一日が始まってしまった。
「困ったわね……」
ため息をついてアデールはコレットを抱きしめた。
体の疲労はアデールが仕事に行くのをためらわせたが、与えられた責任を放り出すことはできない。
アデールはやつれた顔を隠すためにいつもよりも念入りに化粧をし、エミリアの屋敷に寄る。
「アデール、エリクとは話をしたの……?」
心配そうに尋ねるエミリアに、その話は帰りにでもするとだけ曖昧に伝え、コレットに手を振って早々にその場を離れた。
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