おとぎ話の英雄夫妻に見る結婚の考察

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 ティーン向けの薄い本を読み終え、アデールは溜息をついた。  それと同時に隣の部屋から猫が鳴くような声が聞こえ、テーブルから立ち上がる。  声の元に辿り着けば、娘のコレットが泣きながらベッドの上でアデールを呼んでいた。 「コレット、起きちゃったのね。どうしたの?」 「ママ、怪獣がね、コレットのこと食べようとしてた」    しゃくりあげながらそう訴えるコレットをアデールは抱き上げた。  どうやら怖い夢を見たようだ。   「もう怪獣はいないわ。ママがいるから大丈夫。さ、あっちのお部屋にいきましょうね」  コレットを抱き部屋を移動しながら、アデールはまだ娘が昼寝をしてから1時間も経っていないことに嘆息した。   (この子が寝てる間にお掃除と縫物を済ませたかったんだけどな……)  コレットは今年3歳になるが、母親と片時も離れることのできない子だ。  アデールに似たプラチナブロンドの髪に大きな瞳。鼻筋が通ったところは父親譲りだ。  こんな愛らしい娘がかわいくないわけがない。  しかし、毎日毎日娘と2人きりで過ごす日々は正直息が詰まる。  側を離れれば泣くから家事もロクにできず、自分の時間すらない。  いまだに毎日抱っこをせがまれるアデールは、腰も腕も疲労で毎日パンパンだ。  夫のエリクは出世した。  嬉しいことだが、その代わりに毎朝早く出勤し、夜の帰りも遅い。  育児の負担はアデール一人に傾くばかりだ。    ――働いていた頃は。  コレットがおもちゃで遊ぶのを漫然と付き合いながら、アデールはふと考えていた。  あの頃は自由だった。  日々自分の魔道の力を高めるために鍛錬を重ね、勤務が終われば仲間と街へ食事へ繰り出し、想いを寄せる相手と言葉を交わせばその日一日が薔薇色で終わる。  そんな、自分だけのために過ごせた毎日が懐かしい。  そんなことをぼうっとした頭で考えていたが、そのうち頭を振って回想を強制的に打ち切った。  娘の存在を頭の中で否定したも同然だ。こんなことは二度と考えてはいけない。
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