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夢での邂逅
青空誓は目を開けた。
そこは少し木陰になっていて、涼しい。誓は木漏れ日が差す木々の根元で横になっていた。
「ねえ、誓。天国と地獄って信じる?」
そう言って、ふんわりと誓の頭に手を置く、優しい笑顔の風見陽介がそこには居た。
これは夢だろうか。
そんなことを思いながら、誓はこくりと頷く。陽介は誓の戸惑いは感じていないのか、話を続けた。
「天国と地獄って、何が違うと思う?」
誓はわからないと首を横にふって、身体を起こした。同じように隣に座っている陽介は、遠くに見える網に意識を戻していた。
「実はね、天国と地獄って変わらないんだよ。風景も料理も、何もかも一緒なんだ」
そう言うと、陽介は誓の方に顔を向けた。その瞳は「何故だかわかる?」と聞いていた。誓は吸い込まれそうな緑色の瞳に息をのみ、わからない旨を伝える。
陽介はそれに微笑んで、また網をみた。
「でもね、集まる人が違う。同じ景色でも、人の心一つで天国にも地獄にもなる。だからね、誓。今のままの真っすぐな心で……を救って……」
突然、風が吹いた。陽介の声は風の音で、ところどころ聞こえない。陽介は誓に何て言ったのだろうか。誓は口を開いて尋ねようとしたが、そこに一際大きな風が吹く。先ほどよりも強い風に誓は、目と口を閉じてしまった。
しばらくして風が止み、誓が目を開けるとそこには闇が広がっていた。もちろん、陽介の姿はここにはいない。胸騒ぎを感じて、誓はすぐに陽介を探し始めた。
どこにも居ない。
それでも暗闇に向かって走り続けると、やがて耳に音が聞こえ始める。これは風のコードが戦っている音だった。硬い何かが風によって砕ける音。そして、
「誓! にげろおおおおおおおおおお」
耳を劈くような陽介の声があたりに響く。
そして真っ暗だった世界に、はっきりと陽介の姿が浮かび上がった。現れた陽介は、おびただしい量の血を流してこちらに背を向けて戦っている。その血の量に誓はひどく取り乱した。
「陽介さあああん!」
何度も叫びながら陽介の方に走っていくが、近付くことはなかった。ただただ、目の前で陽介が傷ついていく姿は誓の顔をひどく歪ませた。
そして、不意に陽介が誓の方に振り返る。瀕死の状態にもかかわらず、その口は微笑み、誓にサヨナラを告げた。
その直後、風のコードが自身にまとわりつき、その浮遊感で誓は意識を飛ばした。
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