目覚めの風②ー準備ー

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目覚めの風②ー準備ー

 ルカはカイが部屋から出ていくのを見送った後、椅子から立ち上がり誓を見た。 「さあ、誓。僕たちも行くよ」 ルカはそれだけ言って部屋を出ていく。慌ててベッドから這い出した誓は、部屋を後にしてルカを追った。 「ちょっと、待ってよ。ルカくん」 なんとかルカの隣に追い付く。背は誓より数センチ低いだろうか。その横顔は無表情で誓には彼が何を考えているかわからなかった。 「……ルカで良いよ。同い年だし」 「わかった。ルカ」  ルカは考え事をしているのか、どこかピリピリしていた。 「誓の話が本当なら、おそらく君の目的の相手は会社側の人間だろうね」 「えっ」 「理由の一つはその特殊なコード。一般的なコードを付与して出る副作用的なものが何も出ていない」 「副作用?」 「そう。副作用。僕は視力が増加し過ぎて偏頭痛持ちになっちゃったし、カイは毛根が弱った気がするって、頭皮へのケアばかりするようになった。だからカイへの髪の話題はNGだよ」 誓が戸惑って居ることを察したのか、最後の方はどこかおどけた調子で言うルカに誓は苦笑した。 「はは。確かに、オレにはそういうのないかな」 ルカはすぐに真面目な顔になって言った。 「だから副作用がない。そんなコードが世に出てしまったら大変なんだ。その特殊なコードは都市伝説みたいになっていて、一度、すごく話題になったことがある。でもその時、企業側がそんなコードはないとキッパリ言い切った。この意味わかるかい?」  ルカは一瞬、誓の顔を見たがすぐに近くのドアの前に手をかざして、中に入っていく。おそらく返事は期待していないのだろうと理解し、誓もすぐに後を追った。  部屋の中には沢山のモニターがあり、モニターの前には何やら機械もたくさんあった。その機械の前にルカは座り真ん中にある大きなモニターの電源を入れた。そして機械を操作し始める。誓は静かにモニターに写し出される映像を見て、ルカの話に耳を傾けていた。モニターには、自分が風のコードを使用して竜と戦った記録が写し出されていた。 「その副作用の出ないそのコードで、この世に二つとないはずのファーストコーダーの風のコードを持つ、誓が現れた。誓の話を疑っている訳じゃないけど、誓の話を是とすると企業は嘘をついてたことになる。では何故嘘をついたのか。正直、副作用が出ないなら、それを公表したって良いはずだ。そこで誓の言っていた、ファーストコーダーの風見陽介さんが殺されたと言う話だ。恐らくその特殊なコードは人道に外れている何かがある。それを知られることを企業は恐れている」  モニターに映された誓が戦っていた映像は黒い画面になり、【DELETE】の文字が点滅し始める。ルカはその文字を見て、安堵のため息を吐いた。どうやら、本部にデータを転送する前に映像を消去することに成功したらしい。 「僕たちの話に乗るから、そのコードの話をしてくれたと思うけど、これからはその話も風のコードも伏せといた方がいい。誓が存在しているだけであの企業が真っ青なんだ。命を狙われても不思議はない。これから僕たちは一心同体なんだ。君が狙われると僕たちも狙われることになるだろう。それだけじゃない。君がこれから関わった人全て、君の秘密を知っている知らないに関わらず、処分されるだろう」 ルカの真剣な表情に唾をのみ込み、誓は深く頷いた。 「……わかった」 「ここで誓が戦った記録も消しておく。炎のコーダーに見られちゃっているから、気休めかもしれないけどね。でも多分、彼は僕たちが行く学校には来ない。時間稼ぎにはなるはずだよ」  そう言うとルカはまた機械を操作し、モニターに数人の顔写真を写し出した。そこには、風見陽介の顔写真も表示されていた。 「多分、誓は知らないよね。これが、ファーストコーダーたち。要は風見陽介さんの同期たちってとこかな。誓がここで会った炎のコーダーは、火ノ宮十威(ひのみやとおい)さんと言ってファーストコーダーたちのリーダー的存在で、風見陽介さんの相棒だった人だよ。彼は多分ずっと風見陽介さんを探していると思う。だから誓の話は聞きたくなかったのかもしれないね」 誓は引き寄せられるようにモニターを凝視する。 「これが、ファーストコーダーたち……」 「誓の目的のためには、覚えておいて損はないかもね」 「……ねえ、ルカ。ひょっとして、陽介さんが戦っていた記録もここにある?」 誓の少し震えた声にルカは少しだけ悩んで、真実を告げた。 「……、あるよ。ここは、安全地帯の端っこだから。……観たい?」 誓はゆっくりと頷く。 「……じゃあ、食事の後でね。今は明日に備えて、用意しとかなくちゃ」  ルカはそう言いながら、部屋の奥から包帯と茶封筒を持ってきた。誓はひどく苦しそうな顔をしていたが、それを無視してルカは取ってきたものを渡す。 「包帯で悪いけどその風のコードを隠して貰えるかな。左手の甲には、この革の手袋を着けていて。指先は普通に使えるようにフィンガーレスタイプだから」  誓はルカに渡されたものを素直に身に付けていく。  最後にルカは茶封筒から何かのロゴが入った五センチ四方のシールのようなものを出して誓に渡した。 「誓がこのタイプのコードを知っているかわからないけど、とりあえず説明するね。そのシールみたいなヤツが一般的なコード。パッチタイプのものが主流でそれを手の甲にパッチすると、遺伝子が組み替えられ、新たな性質を人に持たせることができる。本当なら資質検査があって、それに合格した人しか手に入れられないんだけど……僕たちはちょっと別の経由で入手したから今回検査は省略。  必ず副作用が出るから、1回しかコードのパッチができないように作られている。誓はコードがもうあるけど、副作用もないし多分パッチ出来ると思う。できなかったら、その時にまた作戦考えるから、とりあえず、コードパッチしてみてくれる?  馴染むのは一時間から二時間くらい。  その時にどんなコードか教えて。明日行く学校にってことで申請出しとくから」 「ありがとう。ルカは優しいね」 「……そんなこと……全然ないよ」  それっきり二人に会話はなく、淡々と作業だけをこなした。そして、約束の三十分後になったため二人でカイの居るキッチンへと歩いていった。
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