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シンクロコードと誓のコード
誓がキッチンに入ると助けた少女ーイリカーが居た。彼女はカイの手伝いで食卓にコップやフォークを並べていたが、誓の存在に気付き誓のもとに走ってくる。そして、助けた時と同じように誓の足をギュッと掴んだ。それを見たカイが口笛を吹き、ルカが苦笑する。
「イリカ、誓がビックリしているだろ。離れなさい」
ルカの注意にイリカは首を左右にブンブンと振り、余計に誓にくっついた。
「イリカ」
ルカが少し諭すように彼女の名前を呼ぶ。イリカの緑色の瞳にじんわりと水の膜が張っていった。誓は、安心させるためにイリカの頭をそっと撫でる。
「イリカ、大丈夫だよ。ルカ、オレは大丈夫だから」
イリカは、撫でられた頭に右手を置いて誓に微笑んだ。その時に始めてイリカの手にもコードがあることに誓は気付いた。
そこへ、カイがスパゲティをお皿に乗せて持ってきた。その皿、六枚をイリカが置いたコップの近くに置く。コップ三つに対し六枚の皿に違和感を覚えつつ、カイの言葉に再度意識をイリカに移した。
「ハイハイ。イリカ。もう、寝る時間だろ。明日、出るの早いんだ。俺たちが出ていく時に起きてないと置いていっちゃうぞ☆」
カイのウインクつきの言葉に、何故か体を震わせたイリカは誓のもとを離れ、ルカとカイの頬にそれぞれキスして、部屋を出ていった。
唖然としている誓にルカは、イリカについて話し始める。
「イリカは一人だけ置いていかれるという事にめっぽう弱いんだ」
それを知っててその言葉を使ったカイを誓はジト目でみた。カイは苦笑して誓に話す。
「結局、明日から俺たちが行く学校にイリカは連れて行けない。だから、それを置いていくんじゃなくて、待ってて貰うって意識に変えて貰わねーと。イリカはきっとダメになっちまう」
「えっと。ひょっとして、この研究所って今、三人だけで住んでいるの?」
「そうだよ。明日出ていくときにお世話ロボットを起動させていくつもり。イリカは当面そのお世話ロボットと一緒にここを守っていてほしい。僕たちの帰る場所としてね」
誓は少しうつむいた。その時カイに肩をポンッと叩かれる。
「おまえのせいじゃねーって。誓が来なくても、イリカは連れて行けなかったんだ。さ、冷める前に飯食っちまおうぜ」
そう言ってカイは誓を近くにある椅子に座らせた。
「あの……ルカ、そんなに食べて大丈夫?」
誓の前に座るルカの前には、空になった三枚の皿があった。誓は、四皿目のスパゲッティを食べているルカにそう聞いてしまった。
「そうだね。お腹一杯食べるより、腹八分目が良いって言うものね。じゃあ、これで終わりにするよ」
これで、まだ腹八分目だったらしい。誓とそう変わらない体格で、いったいどこに食べた物は入っているのだろうか。そう思いながら、誓は自身のスパゲッティも少しずつ進めていく。
もう少しで食べ終わるという段階になって、誓に異変が訪れた。手が小刻みに震え、コードを付与した右手が光始める。先ほど付与したコードが定着し始めたのだ。
「始まったね。誓。もう少し我慢できる? 隣の部屋に行こうか」
移動した隣の部屋にはバーチャル空間が広がっていた。部屋を入ったと同時に青空が現れ、食堂の半分しかない広さだった部屋の壁が見えなくなる。そして、safe15区のどこかだろうか、アパートやビルなど、どこかみたことのある街並みが現れ始めた。
「誓。君は今、そのコードを使いたくって仕方ないと思う。コード定着化が始まると、そうなってしまうのは僕らも経験済みだよ。ここなら存分にコードを使って良いよ。そのコードで僕たちを倒してみてよ」
「え、倒す?」
「そうそう。ただ、俺達だって、あっさり倒されるつもりはないぜ」
そう言うとカイとルカは誓の前に立ち、左手でコードを触る。
「「コンパイル!」」
二人同時に光始めた。
「「僕たち(俺達)のコードは、同調コード」」
「ルカの頭脳と」
「カイの身体能力をコードで底上げして」
「「二人で共有している」」
カイとルカはそう言うと、左右に別れて走り出す。その走りは一瞬で、誓が認識する前に誓は吹っ飛んでいた。誓は後退しながらなんとか着地したが、着地したすぐ右にルカが足を蹴り上げているのを聞いてさらに後ろに後退する。後退した先にもカイが拳を振り上げているのを再度聞いて、追撃を回避した。
「ひゅー。誓、やるなー」
「誓の副作用はどうやら聴覚みたいだね。視認するより先に動いている。これは手強いね」
ルカはそう言うと足に力を込めて飛んだ。周りにある建物に足を付け走り回る。カイはそのまま突進してくるようだ。誓は、いつの間にか自身の全身を纏った光をみて、コードが発動されていることを認識する。誓は開いていた目を閉じた。風のコードとは違うコードの鼓動が聞こえてくる。そのコードは好きに戦って良いと言っているようだった。
ーー想像して戦えと。
誓は目を開けていつも通り戦いたいと願う。すると、風が右手のコードに集まってくる気配を感じた。いつも通り風の力を借りて、誓はカイと距離を詰めた。殴ってくる拳を交わして、カイの足を引っかけることに成功する。そのあと、誓はすぐに足に風をためて跳躍した。空中で読んでいたかのように蹴りあげるルカを風に乗って交わし、再度、回し蹴りをしてきたルカの足を掌に集まった風の塊で受け止め、風の塊をそこで解放した。
風がルカを吹っ飛ばした時に、今まで見えていた街並みが消失する。そこには青空もなく、ただただ壁で囲まれた部屋があった。
誓は床で倒れている二人に近付く。二人は息を荒くしていたが、無傷だった。コードが解けていた二人をみて誓もコードを解く。
「二人とも大丈夫?」
カイの息はすぐに整って、腹筋の力で起き上がって伸びをする。
「あー! 負けた! 初めての同調コードでの戦闘にしては、うまくいったと思ったんだけどな」
「え。初めて?」
まだ息が整わないルカは苦しそうにしながら言う。
「知っている通り、ここには僕とカイ、イリカの三人しか居ない。まさか、イリカと戦うことはできないし、僕とカイでは同調コードのせいで、戦いにならない。お互いの思考から、今見えてるものまで共有しちゃうから」
「あれ? そういえば二人とも同調コードなんだね」
「ああ、正確には僕のコードは同調コード・オーナーで、カイが同調コード・ワーカーというところかな。だから、同じコードってわけじゃないよ」
「そうなんだ。それより、ルカ、君いつまで床にいるの?」
「……コードを使った影響で全身筋肉痛なんだ。僕はしばらく動けない」
そう言って、ルカはカタツムリのようにぬるぬる動く。
「じゃあ、カイに運んでもらって……って、カイ?」
カイは隅っこの壁に手をついて、下を向いている。誓はカイのそばにいき、肩を叩くとそれを合図にカイは吐き始めた。
「おええええええええええ」
「えっ? カイ!?」
「誓、そっとしといてあげて。カイはコードを使うと情報の多さに脳が耐えきれなくなって吐くんだ。僕同様、しばらくしたら動けるようになるから」
「……わかった」
「……そういえば、結局、誓は何のコードだったの? 風を纏っているように感じたけど」
苦笑して、誓は言った。
「うん。いつもの風のコードだったよ」
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