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「マジ? 助かる。今日は蒸し暑かったから、俺、汗臭かったよね」
「ふふ。それもまた良き。だよ」
ユノは口元だけで笑うとソファにもたれ、ローテーブルに置いてあったグラスの緑茶をゴクゴク飲み干した。
ロックバンドでボーカル担当のくせに、好きな飲み物は緑茶っていう。そういうところもユノの不思議なところ。「緑茶好きって面白いよね」以前、ユノに言ったらキョトンとしてた。「別に好きじゃないよ。たまたま」そう言ってたっけ。
「あ、冷蔵庫にペットボトルあるから、飲んでいいよー」
「さんきゅ」
「うん」
食器棚からグラスを出して冷蔵庫を開ける。入ってるのは緑茶のペットボトル。二リットルサイズのやつ。
やっぱ緑茶好きじゃん。
そう思いながらグラスに緑茶を注いだ。キンキンに冷えたのを一気に飲んで、グラスを洗い、水切りカゴに伏せる。
シャワーを借り、脱衣所で身体を拭いていたらユノがドアを開けた。
「これ、新品あるからあげるよ」
「あ、サンキュ。いつも悪いね」
「いーのいーの」
包装されたままの黒のボクサーパンツを有り難く受け取る。
ユノのうちに行くと、こうやって新品の下着をもらうことが多い。準備がいいなって思う。それだけあちこちに相手がいるのか。じゃあ女の子の場合は? 可愛い新品の下着でも渡すのかな? それはいくらなんでもまずいよね? なんてどうでもいいことを考える。
身支度を整えリビングに戻ると、ユノはさっきと同じ姿勢でゲームをしていた。
「ありがと。じゃ、行くわ」
「はーい。おやすみ~」
ユノは画面から目を離さず返事をした。
コントローラーから手を離したから、こっちを向いてバイバイでもしてくれるの? と思ったら、グラスを掴んで緑茶を飲んだだけだった。
マンションの駐車場から出て、自分のマンションへ戻る。
運転しながら、昼間のラジオ収録のことを思い出していた。
サプライズゲストの若手俳優が現れた途端、「えっ!?」と驚きながらユノが顔を真っ赤にした。嬉しそうに手で口を塞ぐ。俳優もユノしか見てなかった。スタジオに入ると、当たり前のようにユノが「どうぞ」と身体を斜めにして、俳優はユノの隣へ座った。
ユノは器用で、俳優の仕事もしてる。ゲストの俳優は今撮影しているドラマの共演者だった。
「あー……ビックリしたあ~。いやね、昨日、飲んだばっかなの」
俺が聞く前にユノが話し出す。
「え、一緒にってこと?」
「そうそう。……そんな素振りちっとも見せなかったのに」
「そうそう」は俺にだったけど、後半は隣の俳優を上目遣いで見つめ拗ねた口調。俳優が笑いながら弁解する。
「いやいや。だって、絶対に秘密ですよ! ってマネージャーから言われてたから」
「はぁ……昨日、すっごく楽しかったのに、黙ってたなんて……信じられない!」
ユノが嘆くと、スタッフから笑いが起こった。
収録の間中、ユノはそいつとずっと話し込んでた。曲が流れていようといまいと関係無かった。俺はテーブルの反対側でワケの分からない苛立ちが顔に出ないよう耐えてた。
いつもなら、収録が終わってからしかしないユノへの誘いの連絡を、休憩時間にしてしまったのも、きっとその苛立ちのせい。「OK」の短い返事がすぐにきて、苛立ちが若干治まった。
でも、休憩が終わってからも、ユノとそいつのイチャイチャは収まらなかった。
昨日飲んだと言っていた。もしヤってるなら……。
俺は指で解すこともしないで、ユノの小さな入口に捩じ込んだ。
ユノはしてなかった。
窮屈過ぎるソコに、慌てて押し込む力を緩める。
俺の嫉妬は雪のように解けて無くなった。
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