い・ら・な・いオートマティック

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い・ら・な・いオートマティック

 二十二世紀に入り、この世のあらゆるものが自動になったが、どこを自動化するかは個々人のセンス次第だ。  僕は毎朝八時に目を覚ます。もしも寝ぼけてスマホのアラームを止めてしまったとしても、まったく問題はない。五分後に再びアラームが鳴ったときには、スマホの時刻表示のほうが八時ちょうどに合わせてくれるからである。  もちろん世界の標準時までが僕に合わせてくれるわけではないので遅刻はするが、会社に到着するまで遅刻に気づかなくて済むというのは、無駄なドキドキがなくて良いものだ。  ようやくアラームに反応して目を開けると、その動きに連動して自動的にまつげが立ち上がる。同じく鼻毛も真っすぐに屹立して、僕は戦闘態勢に入る。いわゆる「朝立ち」というやつである。  ベッドから起き上がり洗面所へ一歩足を踏みだすと、床に置いてあったスリッパが勝手に足に吸いついてくる。そしてそのスリッパは、必ず適温にあたためられている。これは近ごろ話題の「藤吉郎」という機能である。  洗面所へ到着すると、自動的に噴霧されるミストが包み込んで顔全体を綺麗にしてくれる――というようなことはなく、玄関にあるシステムが作動して革靴が自動的に磨かれる。  これは僕が自分の顔面よりも革靴の光沢を重視しているからであり、必要とあらば両方を自動化することもできるが、そこは予算の問題もあって。
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