【シーズン1】 ホームタウンオブザデッド

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【シーズン1】 ホームタウンオブザデッド

「あのー、妹さん。 食事の用意が出来ました…………よ?」 「…………」 返事はなし。  今日も彼女の返事は返ってこなかった。 前に妹の声を聞いたのは、何日前なんだろう。 もう遠い過去のような気がする。 「じゃあ、食べ物は部屋の前に置いておくよ。 兄ちゃんはリビングで漫画を読んでるからな。 何かあれば、呼びに来てくれて構わないぞ?」 慌てて取り繕うように、僕はそう言葉を続けたが、後に残るのは静寂だけだった。 「…………」 僕は妹へのコンタクトを今日も諦めると、リビングへと退散することにする。   昼間だというのにカーテンを閉め切り、ライトの明かり一つない真っ暗な廊下を1人、とぼとぼと歩く。 そのリビングと妹の部屋を繋げている廊下の距離は僅かなものだったが、僕には無限のように感じた。 父さんと母さんが交通事故で死んでから約3年。 妹はまだ、その死をひきづっている。   ああ、妹よ。 どうすればもう一度前を向いてくれるんだ。 どうすれば引き篭りニートをやめ、部屋の外へ出て来てくれるんだ。   僕にはもう、分からない。 毎日毎日、その事を考えていると、頭が痛くなってくる。 どうしたら…………どうすれば…………。 僕も、引き篭もってしまおうかな……。 そんな冗談じみた、バカな考えが頭をよぎる。 だが自分の中に残っていた僅かな『常識』が、自分で自分にツッコミを入れた。 「……いやいや。 今の状況も、引きこもりとあまり変わらないだろ」 それにしてもさっきから、廊下の奥が騒がしい。 誰かが玄関の扉を叩いている。 だがその正体が僕にはもう、分かっていた。 こういうのは、気にしないのが一番なのだ。
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