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「ようこそいらっしゃいました」
チェックインを済ませる為にフロントに向かえば、フロントマンの女性は洗練された対応で迎えてくれる。
名前を告げようと口を開こうとすれば、気のせいだろうか。完璧だったフロントマンの態度が、一瞬何かを見て驚いたような表情をして綻んだ気がした。
だが目の錯覚だったのか、フロントマンはにこやかな笑みを浮かべ、流麗な口調で告げる。
「申し訳ございません、お客様。少々お待ちいただけますでしょうか。すぐに戻りますので」
フロントマンは恭しく頭を下げると、スタッフの空間であろう奥の方へと消えていく。だが言葉通りすぐに、上司であろう上品なスーツの初老男性を連れて出てきた。そのまま戻ってくるのかと思いきや、フロントマンが連れてきた男性のみがこっちへと近づいてきた。
「お待たせ致しました。私は総支配人の林と申します」
「……予約をしていた安野高斯乃です」
どうして総支配人が出てくるんだと突然の事態に身構えるが、恭しく挨拶をされ、怪訝には思いながらも挨拶を返す。
総支配人は思考の読み取れない完璧な笑みを浮かべており、穏やかな物腰だが隙のない佇まいが外見だけではない事を語っている。
「ようこそいらっしゃいました安野高様。当ホテルをご利用頂き、誠にありがとうございます。失礼ですが、お隣に並ばれている方は安野高様の御友人様でしょうか?」
「……そうですね」
知り合ったばかりで友人ではなかったが、否定する方が面倒に思えて肯定する。
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