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考えている内に知らず重たいため息が吐き出る。思わずぐしゃぐしゃと髪を搔き乱す。深く考えようとする程疲れる気がして、考えるのをやめた。
割り切ればいい。玲慧のように。どうせもう俺には失うものはないし、誠実に生きる必要もない。
胸がざわざわと騒めいていたが、その不快さを振り切るように部屋を出た。すると、扉の横で壁に背を預けて佇んでいた玲慧に驚いた。
玲慧は手に持っていたスマホをズボンのポケットにしまい込むと、にこやかに笑う。
「先に行ってなかったのか……?」
「うん。斯乃を待ってた。来たばかりだからレストランの場所分からないでしょ?一緒に行こうと思って」
「ごめん。ありがとう」
玲慧は気にしていないようだが、俺が待たせた時間は短くはなかっただろう。だが、玲慧は笑うだけで不満を感じさせない。
待たせた事は悪いと思いつつ、気安いところがあり掴みどころがない男だが良い奴だと思う。あの時は自分の事で精一杯だったが、玲慧が部屋を出てくれたのは俺に気を利かせてだと理解ができる。
多少強引なところはあるが、別に無理強いはする気がないのだろう。
途端、今更だが部屋で突き放した事も申し訳なく思った。お互いに子供ではない。俺が遊びに了承した時点で、玲慧の中でそういう関係が含まれていようとも玲慧だけを責められる事ではない。頷いた俺にも責任はあるのだ。
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