78人が本棚に入れています
本棚に追加
エレベーターを利用して十七階のレストランへ移動する。優雅な内装をしたレストランは壁一面に大窓が連ねられており、カーテンレースが引かれたその窓からは海が見える贅沢な空間になっている。
ランチタイムを迎えたのもあってか、レストランの中は他の利用客で華やかに賑わっている。
「ここで待ってて」
繋いだ手が離れる瞬間、まるで何かを落としてしまったような喪失感のようなものを感じた。だがすぐにはっとなり、何を考えているんだと馬鹿な自分を叱咤する。
その程度の事を気にするなどまるで子供だ。
複雑な心境で中に入っていた玲慧を待っていると、すぐに戻ってきた。
「待たせてごめんね。案内してくれるらしいから行こうか」
「あ、ああ……」
流石に再び手を繋がれるような事はなかった。奇妙な違和感を手に感じながら、ぎこちなくはなったが頷いて玲慧について行く。
ウェイターに案内されたのは奥側の窓際の席というすぐに埋まりそうな場所で少し驚いた。幸運というやつだろうか。
「はいどうぞ。思うままに注文してお金使おうね」
「……それにはお前の分も含まれてるんだよな?」
差し出されたメニュー表を受け取って広げる。すると、流石といったべきかどれも値段が張っていた。
今は俺の金ではないのだが、それでも正直食事にこれだけ使うなら貯金をしたりした方が将来的にも無駄にならないのではないだろうかと堅実的な考えすら浮かべてしまう。
顔を顰めていると、またもや心情を見透かされたのだろう。
「奢ってくれるかどうかは斯乃が決めてよ。俺は自分で払ってもいいから。でも、斯乃は気にせず高いのを選んで食べなよ。そのお金は斯乃が気にするものじゃないよ」
穏やかな口調は変わらないままなのに、最後の言葉だけ強調されたように聞こえた。
玲慧の言う通りだ。金額の事は俺が気にする事じゃない。
最初のコメントを投稿しよう!