79人が本棚に入れています
本棚に追加
なんでこうなってるんだっけ。
冷たい潮風が頬を撫で、緩やかに波打つ海の細波が静かな音を立てている。陽光を浴びて煌びやかに輝く海面は晴れやかで、曇天のような俺の心情とは正反対だ。
だが、真冬という季節の中でも厳しい寒さでは、流石の壮大なビーチも閑散とした光景で、砂浜についた足跡も俺のものぐらいしかない。
賑やかな声を聞きたいわけではない惨めな独り身としては丁度いいかもしれないが。
溜息を吐きたい気分になりながら視線を横にずらせば、右手には大きなスーツケースがあり、一週間分の荷物が詰まっている。
失恋の末路としては陳腐な有様で、考えないようにしていた惨めな気持ちが蘇ってきて、熱くなる目頭を左手で覆う。
「くそ……っ」
傷ついている自分に腹が立って舌を打つ。
泣きたくなんてなかった。泣いたらもっと惨めになるだけで、俺の不幸の原因は今頃幸福な一日を送っていると思うと尚更だった。
八つ当たりに思わず砂浜を蹴るが、虚しさが募るだけで心は少しも晴れない。
穏便に別れる条件に、慰謝料……いや、俺の方が浮気相手みたいなものだから、手切れ金か。別れてやった男に要求した旅行は初日から最悪で、来たのは失敗だったかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!