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「斯乃はこっちにはどれくらい滞在予定なの?」
「一週間。お前は?」
「明後日まで。あーあ、もっと休み取れば良かったな。斯乃ともっと楽しく過ごせるのに」
ため息交じりに呟く玲慧は心の底から残念そうな顔をしていた。そんな玲慧に、何故か苦笑すらできずに戸惑ってしまった。
玲慧と過ごせるのが今日を入れて三日程しかない知った途端、焦りのようなものを感じた。
……まさか嫌だと思っているのか?
会って間もない男に対して、過ごせる時間が短いのが嫌だと。まるで子供のように置いて行かれるような気持に似た苦いものまで感じて益々戸惑った。
「斯乃は可愛いね」
唐突に言われた言葉に反応が遅れる。穏やかに目を細める玲慧に見つめられ、その視線の甘さにかあっと顔が熱くなった。
こいつの舌には何か上手く舌が回る機械でも仕込まれているんじゃないだろうか。
「……お前慣れてるよな」
「本当の事だから。斯乃は可愛いよ」
「……もういい」
これ以上否定しても玲慧は躊躇いもなく歯の浮くような甘ったるい言葉を返してくるだけだろう。
絶対に誰にでも言い聞かせている常套句だと理解しているのに、熱くなる自分の馬鹿さを誤魔化したくて車窓の方を向いた。
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