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それから程なくして、煉瓦の門柱が支える木の看板が見えた。ロフィア&ローズガーデンと白文字で書かれている。
門をくぐった先にはお洒落な外観の建物があり、駐車場にタクシーが停車すると運転手が到着を告げる。
タクシーを降りれば、まだ入館していないにも関わらず山の中に入った時のような澄んだ空気がした。
「ここは冬の絶景散策と呼ばれるくらい人気のガーデンなんだ。たくさんの種類のガーデンがあってハーブ作りの体験もおすすめなんだ」
玲慧の説明によると、二十万坪の大規模を誇り、世界中から集めた花、特にバラやハーブを楽しむ事ができるのだという。
花には疎いが、バラに限らず日本庭園まであるという内容の充実さに興味が引かれる。近くのチケット売り場で入館料を支払い、専用バスで山頂へと移動する。どうやら徒歩で山を下りながら鑑賞するという事らしい。
最初にやってきたのは意外な事に、ガーデンという響きへの予想を裏切った神社だった。神社と言っても規模のあるものではなく、社の先に低い石階段があり、小さな祠があるひっそりとしたものだ。
だが木々に囲まれて存在している光景には風情があり、情緒を感じる。
「驚いた?」
「ああ、お前から日本庭園については聞いてたけど、まさかこんな場所もあるなんて思わなかった」
「ここはね、山の神の娘で麗しい乙女と言われている木花之佐久夜毘売を祀ってるんだよ。庭園に美しい女神を祀るなんて素敵だよね」
このはなの……長い。聞き覚えはある気がするが、頭を捻っても出てくる気配はない。だが、玲慧の意見には同意だ。
まだ始めだが、よく考えられていると思う。
「ここを降りると日本庭園に行けるんだよ。行こ」
「……っ!」
自然の流れのように手を繋がれ、鼓動が跳ねた。玲慧に連れられて反対側の階段を降りていく。
すると、見事な盆栽を誇る広々とした日本庭園へと出た。落ち着いた風情ある光景に驚く。だがそれだけに終わらず、落下防止の為だろう瓦屋根の壁の先には壮大な湾が一望できる絶景に圧倒される。
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